のび太は昼寝をし過ぎたせいで、夜中になっても寝つけません。退屈でしょうがなくてテレビでも観たいのに、もう今日の放送は終わってしまいました。
(のび太が子供の頃の時代は、真夜中にテレビが放送してなかったのです)
のび太はドラえもんをたたき起こして、「なんとかしてよ」と懇願しました。するとドラえもんは眠い目をこすりながら、ひみつ道具の“ユメテレビ”を取り出したのです。
ドラえもんのユメテレビは、人の夢を映し出すテレビです。
指定した方角と距離の場所に眠っている人がいると、その人が見ている夢が画面に映ります。方角と距離は画面の下にある2個のつまみでそれぞれ合わせます。
のび太が地図すら見ずに造作もなく目的の人がいる位置を指定できたことから、なんらかのサポート機能が備わっていると推定されます。
「ねえ聞いて。昨日見た夢なんだけどさあ――」
人が見た夢の話、あなたは楽しめますか?
世の中をざっと見渡す限りでは、「つまんない。夢の話なんて聞く意味ないでしょ」が多数派のようです。
ところで「昨日見た夢の話」をなぜするのか。それはたぶん「自分の想像を超えきた」からでしょう。目覚めているときには想像だにできない奇想天外な展開は人に聞いてもらいたくなるものです。
でもその驚きを人に伝えるのは難しい。なにせ常識の通用しない夢の世界の話です。言葉という形に整理すると不条理さが薄れて、ありのままが伝わりません。
そこでユメテレビです。夢のおかしな世界をおかしなままに観られます。これなら誰だって人の夢を楽しめる――かというと、そうでもないでしょう。
「わけのわからないシュールな夢」は、我がこととして体験したから面白かったのであって、人ごととして眺めるだけじゃ退屈と紙一重です。
デヴィッド・リンチ監督の映画『イレイザーヘッド』に代表されるシュールな映像作品は人を選びます。人に見せることを想定していない「夢」なら殊更です。
そんなカルト映画を好きな好事家にとっては、「一期一会のレアな映像作品の新作が延々と配信される格別のひみつ道具」といえるでしょう。
ユメテレビが映すのは、思慮も配慮も遠慮もない、むき出しの映像です。18禁の映画をはるかに超える、えげつなくておぞましい映像にぶち当たるかもしれません。
過剰に性的だったり暴力的だったりする映像が苦手な人は、ユメテレビを使わないことをお勧めします。
ユメテレビで人の夢をのぞき見ても、法的にプライバシーの侵害が成立することはおそらくありません。
とはいえ明らかにモラルに反する行いです。とがめられて当然のことをしている自覚は必要でしょう。
人に夢をのぞき見られていたって、それに気づきようがありません。
そうです、この世のどこかにユメテレビがあって、あなたの夢だってのぞかれているかもしれないのです。「知らぬが仏」というやつです。
クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』のように、夢から機密情報を得たり、アイデアを植えつけたり、なんてことはユメテレビではできません。
映画『インセプション』予告編
「夢の話をするのも聞くのも好きだし、シュールなカルト映画も大好物だし、なんなら夢占いも信じてるし!」という人ならユメテレビはかなり魅力的に見えるはず。
ただしユメテレビには録画機能がありません。リアルタイムでしか観られないから、人の寝ている時間に起きてなければいけないのです。これは結構きつい。
ひみつ道具をいくつももらえるならともかく、一つだけとなると「人の夢をのぞき見る」ということによほど強烈な執着を覚える人しかユメテレビを選ばないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ユメテレビの優先度は星
つです。