夏休みの宿題で毎日の天気を日記につけなきゃいけないのに、のび太は一週間も日記をさぼってしまって、前の天気を思い出せなくて困り果てました。
残りの夏休みにも同じ失敗をのび太は繰り返すだろうと考えたドラえもんが、しぶしぶ取り出したひみつ道具が“天気決定表”です。
ドラえもんの天気決定表は、天気を自由に決められるタイムスケジュール表です。
表紙の項目に年度を、スケジュール欄に天気記号をそれぞれ記入すると、現実の天気がそのとおりになります。
対象エリアがどうやって決まるかは不明です。ここでは最初のページに対象エリアを指定する項目が用意されていると仮定します。
また、一度決めた年度は変更できないものとします。つまりドラえもんからもらえる1冊の天気決定表が有効なのは最大で丸1年です。
自分の好きなように天気を決められるなんて、そりゃもう当然便利です。でも、天気は個人のものではありません。
天気決定表の表紙には「気象庁専用」とばっちり記載されています。ドラえもんによると「未来の世界では天候は気象庁がきめるんだ。そのための表だ」(1)とのこと。
どう考えても天気決定表の私的利用は許されない――というのは表向きの話。是が非でも晴れてほしい特別な予定のある日にピンポイントで天気を操作するくらいなら、ドラえもんも許してくれるでしょう。
どのみち指定した年度が終わるまでの期間限定です。たとえモラルを度外視しても、享受できる便益は限られます。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第12巻「天気決定表」より。
天候はさまざまなことに影響を及ぼします。天気決定表で計画性を欠いたスケジュールを組めば、なにかしらの実害が生じるでしょう。
しかるべき天候と乖離(かいり)しないようにする配慮が求められます。
もしも1年のあいだ雨を降らせ続けたら? 土砂災害などの目に見える被害を引き起こすだけではなく、地域住民の精神をむしばみ、暗い影を落とすでしょう。
そういった悪意をもったスケジュールを天気決定表で組まずとも、そもそも一個人が勝手に天気を決める時点で悪質なことを忘れてはいけません。
気象のメカニズムは解明されつつあり、天気予報の精度は年々高まっています。通常と異なる天気の変化が起これば、すぐに察知されます。
しかしその原因が天気決定表という一冊のスケジュール表だとは、現代の科学技術では知る由もないでしょう。
タイムスケジュール表に天気記号を書き込むだけで天気を変えられるって⁉ そんな馬鹿な!
我々現代人の常識からすれば、天気決定表は半ば「神のなせる業」です。そして気象の掌握は強大な力となります。
ただしドラえもんからもらえる1冊だけの天気決定表では、特定エリアの天気を1年変えられるにとどまります。革命と呼べるほどの成果をあげるには足りません。
結婚式とかのいわゆる「ハレの席」は、文字どおり晴れてほしいものです。だからといって雨が降っても予定日はたいてい変えられません。
予定日を変えられないなら、天気の予定を変えてしまえ! なんていう無理難題を天気決定表は実現します。これは途方もない利便性です。
けれど自分のわがままで天気を変えるのは本来許されないことだし、1年限りという制約もあります。手放しには評価できません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、天気決定表の優先度は星
つです。それにしても、行政機関専用のひみつ道具を持っていて、過去への干渉を黙認されているドラえもんって、いったい何者なのでしょうね。