未来の世界からタイムマシンを使って現代へ逃亡してきた犯罪者の持ち物として初登場したにもかかわらず、のちにドラえもんのひみつ道具として大長編のキーアイテムとなるまでに昇格したのが“雲かためガス”です。
てんとう虫コミックス第4巻「未来世界の怪人」に初登場(1)したときは、ドラえもんは「雲がためガス」と呼んでいます。本稿では、このひみつ道具がもっとも活躍する大長編『のび太と雲の王国』での呼び名「雲かためガス」を正式名称としました。
(1)登場したのは名前だけで、道具そのものは出てきません。
ひみつ道具の雲かためガスは、雲を固められるガスを噴射するスプレー缶です。
雲にこのガスを吹きかけると、瞬く間に固まります。凍結するのではなく、固く締まった綿のようになります。強度は高く、人が上を歩いてもびくともしません。固めた雲は、元と変わらず空に浮かび続け、風に流れて移動します。
またスプレー缶の性質上、雲かためガスは消耗品だと推測されます。
雲かためガスを活用するには、まず雲に手が届く高さまで行かなければ話が始まりません。最低でも高度300m、安定して雲があるのはさらに高い高度です。
ドラえもんたちは“タケコプター”で一っ飛びだけど、「もしもひみつ道具を一つだけもらえたら」ですから、雲のある高度まで自力で行かねばなりません。
苦労して雲のそばにたどり着いたとして、さて雲を固めてどうする? 作中では固めた雲を自分だけの土地として活用したけれど、それは“どこでもドア”で好きなときに行き来できるからこそ。これまた「一つだけ」の壁が立ちはだかります。
結局ドラえもんから雲かためガスだけをもらっても、活用するのは難しく、持て余すよりほかないでしょう。
乗った雲が風に流されて山肌から離れてしまうと、再び山に突き当たるまで地表に降りれません。風向によっては、二度と地上へは生きて帰れなくなります。ただ雲を固めるだけなら、これといった危険性はありません。
固まった雲は航空機の障害物となります。航空機が衝突したら、最悪の場合、墜落事故を起こします。
雲かためガスで固めた雲は、風に流されても高度は変わらないので、たとえ富士山頂で固めたそしても旅客機の飛行高度である約1万mには届きません。しかし離着陸するときやヘリコプターなど、衝突の可能性はあります。
狙って航空機にぶつけることはできず、衝突する確率は低いですが、事故が起こった場合の被害の甚大さを鑑みると悪用度は高めです。
雲かためガスで雲を固めても見た目は変わらないので、視認はされません。ただし効果は永続的ですから、将来的に誰かに採取されてしまうおそれはあります。とはいえ、そこから雲かためガスの存在にたどり着かれはしないでしょう。
雲に乗っているのを目撃されると騒ぎは避けられません。もしも衛星画像に撮られたら証拠が残ってしまいます。地上に降りれなくなる危険性があることですし、固めた雲には乗るのは愚行だといえます。
雲とは、水滴や氷晶の集まりです。それが綿状の固形になるのだから、水(H2O)の性質を根本から変質させていることになります。これは現代の常識では考えられない革命的なことです。
大長編『のび太と雲の王国』でドラえもんたちは、雲かためガスで固めた雲を開拓して自分たちの王国を築こうとしました。現実でも新たな領土としての可能性を秘めていますが、一缶だけでは社会に影響を与えるほどの広さは確保できないでしょう。
大長編『のび太と雲の王国』のように雲上に王国を築くのは、雲かためガスだけでは叶わない夢です。ほかのひみつ道具と併用してこそ雲かためガスは活かせます。
というわけで「もしもドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえたら」においては、雲かためガスの優先度は星
つです。