格好よく海上を走る戦艦大和の絵が描きたいのび太は、何枚挑戦しても雰囲気を出せなくて、自分には無理だと諦めてしまいました。一度はのび太を激励したドラえもんも、その絵を見て、なるほどこれでは無理だと匙を投げました。
それならばとドラえもんが取り出したひみつ道具が“つづきスプレー”です。
ドラえもんのつづきスプレーは、絵や写真などの続きの場面が見られるひみつ道具です。
例えば画用紙の端に船のへさきだけを描いてからつづきスプレーを吹き付けると、船が進みだして船全体を描いた絵になります。夏の山の風景写真に吹き付けると、秋の景色になります。『モナ・リザ』の複製画は年老いたモナ・リザになりました。
どれだけ時間が進むかは描かれているものに合わせて柔軟に変化します。また、効果の出た対象物に再度吹き付けると、さらに場面が進みます。
作中では彫刻や紙幣にもつづきスプレーの効果が現れました。効果の対象となる媒体はほかにもあると思われます。
「キャラクターが勝手に動き出す」という創作秘話を漫画家のインタビューでよく耳にします。もちろん比喩の話なのですが、つづきスプレーを使えば文字どおり本当にキャラクターを動かせるのです。
この絵の続きはどうなるのか、あの写真の続きやいかに……。次から次へと試したくなります。つづきスプレーは、かなり娯楽性の高いひみつ道具です。
つづきスプレーの実用的な使い道を強いて挙げるなら、特定の場所を監視することでしょうか。例えば登校、出勤前に撮影した部屋の写真につづきスプレーを吹き付けると、留守中の部屋の様子を確認できます。
しかし個人ユースの監視カメラが手頃な価格で買えるこのご時世に、わざわざそんな回りくどい方法が有用となる場面は限られるでしょう。
つづきスプレーで場面を変えてしまうと、もう元には戻せません。下手すると大事な物が台無しになってしまいます。スプレーは拡散しますから、目的の物以外に吹きかからないようにする十分な注意が必要です。
写真に写っている場所のその後が見られる効果は盗撮に使えます。美術館で展示ケースに入っていない美術品に吹き付ける愉快犯はもってのほかです。
一人きりのときにつづきスプレーを使う分には、他人に知られようがありません。場面を変える対象物にもよりますが、手品だと言えば人前で使えなくもないしょう。
一体全体どのような仕組みなのかまったく見当もつかないつづきスプレーは、人知をはるかに超えています。しかし社会とはあさってのほうを向いたひみつ道具なので、我々の生活を変えるような影響力は期待できません。
もしもつづきスプレーを手に入れたら、宇宙人やUMAが写っているとされる写真につづきスプレーを吹き付けて真偽を確かめたい。ほかにもあれやこれやと楽しめそうで、娯楽性は文句なしのはず。
でも、ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる好機に、つづきスプレーを選ぶかというと……、やっぱり選ばないでしょう。というわけで、つづきスプレーの優先度は星
つです。