のび太がここ数日のあいだ、誰かに付け回されているような気がしていたのは、スネ夫による隠し撮りのせいでした。のび太の失敗シーンばかりを集めた動画を作って、みんなでのび太を笑い者にしたのです。
これにはドラえもんも腹を立てました。目には目を歯には歯を。ドラえもんはひみつ道具の“こっそりカメラ”を取り出しました。
ドラえもんのこっそりカメラは、被写体に気づかれないように、こっそり撮影できる8ミリビデオカメラです。
付属品の「電送レンズ」を目的の被写体にくっつけると、どれだけ被写体と遠く離れても、その姿の映像と音声が本体のカセットに記録されます。
映像は「電送レンズから見た被写体」ではなく、「やや離れたところから見た被写体」しかも「状況に合わせた構図」になります。
映写機としての機能も備えているので、再生機を必要としません。
こっそりカメラに現代の8ミリビデオカセットがそのまま使えるかは不明です。当ブログでは「互換性がある」と仮定します。
「こっそり撮影する」って要するに盗撮です。れっきとした犯罪に用いるのを「有用」だなんていえません。
じゃあこっそりカメラの正々堂々とした使い道はなにか、というと、動物の観察でしょう。
のび太がスネ夫にくっけたつもりでいた電送レンズは、風に吹かれて野良猫にくっついていました。そのせいで、カセットに録画されていたのは猫の姿だったのです。
「スネ夫なんかより、猫の生活のほうが断然観たい!」という猫好きは多いことでしょう。
自由気ままに行動する動物の生態を観察するのは大変です。それがこっそりカメラなら、いとも簡単に追跡撮影できます。
ただし電送レンズは1個限りだから回収しないと被写体を変えられないし紛失したら終わりだし、カセットテープという不便な記録メディアだし、なかなか面倒です。
「自動で追跡撮影できる」という利点に飛びつく前に、そういった欠点と天秤に掛けて、自分にとって十分な価値のあるひみつ道具なのかを検討するべきでしょう。
こっそりカメラにこれといった危険性は考えられません。
「こっそりカメラは盗撮のためにある」と言っても過言ではありません。
対象者がどこにいても、なにをしても、電送レンズがついてる限り、すべての行動が筒抜けになります。
しかし電送レンズをつけたのが服にしろ体にしろ、洗濯やシャワーで洗い流されたら外れてしまいます。対象者の衛生感覚が一般的なら、一日と持たないでしょう。下水に流れた電送レンズを回収するのもほぼ不可能です。
それなら電送レンズを自分につけたらどうでしょう。その状態で性行為に及んだら……。たとえ和姦だろうと無断で撮影するのは犯罪です。とにもかくにも盗撮なんてやめましょう。
こっそりカメラの電送レンズはコンタクトレンズのような見た目で、機械的なパーツはいっさい見て取れません。
くっついている電送レンズを見つけられても、まさかそれが映像を送信する装置だとは誰も思いもよらないでしょう。
こっそりカメラの視点の元、つまり本来ならカメラがあるはずの位置には、なにもありません。いったいどうやって虚空から撮影しているのか。こんな技術が普及すれば、プライバシーが確約された空間がこの世からなくなります。
とはいえ、たった1台のこっそりカメラで社会を変えられるかというと、それはまた別の話です。
まっとうな目的に使うにしても、盗撮という犯罪に手を染めるにしても、こっそりカメラの「磁気テープと電送レンズの使い勝手の悪さ」という欠点が決定的に足を引っ張ります。
この手の「空間を越えた観測」を実現するひみつ道具の決定版である“タイムテレビ”を差し置いてこっそりカメラを選ぶ理由は見つかりません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、こっそりカメラの優先度は星
つです。