困難に立ち向かう冒険となる『大長編ドラえもん』シリーズでは、いつもと違うひみつ道具にもスポットが当たります。
ドラえもんとのび太の日常を描く短編には一度も登場していないのに、大長編には繰り返し登場したひみつ道具の一つがこの“たずね人ステッキ”です。
ドラえもんのたずね人ステッキは、尋ね人を見つけるステッキです。
このステッキを床や地面に立てて手を離すと、そのときに捜している人のいる方向へ倒れます。ただしその的中率は70%です。
「尋ね人」とだけ聞くとなんだか大仰で縁遠いことに思えるけれど、お子さんのいる家庭なら身近な出来事の「迷子」だってたずね人ステッキの対象です。
子連れで人込みに出かける際に「転ばぬ先の杖(つえ)」としてこのステッキすなわち杖を携帯しておけば、万が一はぐれてもすぐに見つけられる――とは限らないのが困りどころ。
たずね人ステッキは30%の確率で外します。当たるも八卦、当たらぬも八卦。いわば占いです。
「ステッキを倒して方向を確認しながら探す」というなんとも悠長な使い方からして、これは実用性を求めるものではないでしょう。もっと占いっぽく「運命の人を探す」なんてのがあつらえ向きです。
ともかく確実性に欠けるからには、なにを目的に使うにしろ、あくまで参考にしかなりません。
迷子のような急を要する人捜しにたずね人ステッキを使うのはリスキーです。外れで時間を無駄にして状況を悪くするかもしれません。素直に交番なりサービスカウンターなりに相談したほうが賢明です。
「行方不明者を捜しています」
そんな書き込みをSNSで見かけたら、善意で協力したくなる方も多いでしょう。でも、無闇に拡散してはいけません。DV加害者やストーカーが状況を偽って、被害者を捜している可能性があるからです。
そういった強い執着心から相手を捜している奴らなら、30%程度の空振り率なんてものともせず、執拗にたずね人ステッキを使い続けて、いつか捜し出すことでしょう。
ほかにも「一人で留守番している子供」や「身寄りのないお金持ちの老人」といった“獲物”を探す犯罪者がたずね人ステッキを悪用するケースも懸念されます。
だいぶ遠回りな悪用方法しかないとはいえ、油断はできません。
カコーン! 固い床にたずね人ステッキを倒そうものなら、音が鳴り響いて注目を集めます。そうでなくてもステッキを定期的に倒しながら歩く姿は不審なので、人前で使うのははばかれます。
ただしそれが未来からやって来たドラえもんのひみつ道具だと感づかれるかはまた別の話。目に見える現象を起こさないうえに、的中率70%という曖昧なたずね人ステッキには、「未来のものだ」という確証を得られる要素はありません。
革命を起こすのはいつだって人です。有望な人材をたずね人ステッキで見いだして集めれば、社会を動かすほどの組織が作れるかもしれません。
ただし「それほどの人材を束ねられるカリスマなら、たずね人ステッキがなくとも革命を実現できる」というパラドックスに陥ります。
「今どこにいるか」というのはかなりの個人情報です。たずね人ステッキを使う正当な理由のある状況は限られます。
「居場所を知られたくない」と思っている人を探してこそ本領を発揮することを踏まえると、たずね人ステッキは行儀の悪いひみつ道具といえます。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、たずね人ステッキの優先度は星
つです。