のび太はジャイアンに追いかけられる毎日です。追っ手を阻む機械はないものか、そうのび太に問われたドラえもんが、得意げに取り出したひみつ道具が“ふみきりセット”です。
ドラえもんのふみきりセットは、いろんなものを通せんぼするポータブル踏切です。
この高さ70cmほどの支柱を地面に置いて、電車形のリモコンの警笛を鳴らすと、遮断桿(しゃだんかん)がニュッと出てきて行く手を阻みます。
作動中は支柱が地面にがっしり固定されて、通過しようとするものに合わせて遮断桿が素早く上昇・下降するので、乗り越えることも、くぐり抜けることも、力ずくで越えることもできません。
警笛を止めると、遮断桿が引っ込んで、支柱の固定が外れます。
「踏切はたくさんある」とドラえもんが発言していることから、ふみきりセットには、リモコンが1個、踏切が12個含まれているとします。
ふみきりセットは「搬入も設置も撤収も簡単」と三拍子そろった優秀な通行止め用具です。「私道に勝手に入られて困っている」なんてときはこれで解決――といきたいところだけど、難点があります。騒音です。
近くでリモコンの警笛を鳴らし続けないといけないから、うるさくて住宅地なんかじゃ使えません。騒音はご近所トラブルの筆頭です。私道がどうこうより、もっと面倒なことになるでしょう。
そもそもふみきりセットは「リモコンを持っている電車役の人が近づくと踏切が降りる」というある種の「電車ごっこ」が想定されます。これに実用性を求めるのは筋違いに思えます。
のび太が自宅の玄関前でつまずいた拍子にリモコンを落っことすと、スイッチが地面に当たって警笛が鳴り始めました。困ったことに、リモコンが落ちたのは、玄関に設置しておいた踏切の向こう側だったのです。
いわゆる「インロック」同様の状態になって、のび太は家に入れなくなりました。車やオートロック物件のインロックならスペアキーという解決策があるけれど、ふみきりセットのリモコンにはスペアがありません。
さあ、どうする?
迂回(うかい)したり、向こう側の人にリモコンのスイッチを切ってもらったりすれば済む話です。逆にいえば、別の道もない、向こうに人もいない、となったら極めて厄介です。
まあ、そんな状況に陥ることは、のび太でもなければまずないだろうけど。
「通せんぼ」という大人げない嫌がらせに、わざわざひみつ道具を持ち出すことはないでしょう
直径10cmほどしかない支柱に、数メートルはあろうかという遮断桿が丸ごと出入りするなんて、いったいどんな仕組みなのか。メジャーみたいに巻き取ってる? なんであれ、遮断桿の体積が支柱に収まるわけがありません。
「四次元」だとか、「物体の大きさを変える」だとか、そんな超越的なテクノロジーで実現されているのでしょう。
ぱっと見で「えっ!?」と驚かれること間違いなし。ふみきりセットの特異性に気づかれるのも時間の問題です。
「封鎖」で社会を変えるなら、最低でも「都市の完全封鎖」ぐらいの規模が必要です。ふみきりセット1個じゃあ、せいぜい愉快犯どまりです。
「ひみつ道具でやりたいこと」を想像して、「人を足止めしたい」やら「電車ごっこに使える踏切が欲しい」やらと望む人がどれだけいることか。
そんな「誰得」な要望を実現するような、遊び心がひみつ道具の魅力の一端です。でもそれは数多くのひみつ道具があればこそ。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ふみきりセットの優先度は星
つです。