しずかちゃんの言動に一喜一憂するのび太は正に思春期まっさかり。けれど『ドラえもん』連載初期の頃のしずかちゃんは、のび太に対して結構冷たかったりします。
しずかちゃんにひどく傷つけられたのび太を忍びなく思ったドラえもんが、のび太のガールフレンドとして未来から連れてきたのが“ロボ子”でした。
ロボ子は、友達になってくれる人型ロボット、“トモダチロボット”の一機種です。
ドラえもんがロボ子を連れてきたとき、「きみだけを好きになるように調節してあるんだ」(1)とのび太に言いました。好きになる対象者を自由に設定できるようです。
ロボ子の言動は盲目的で嫉妬心が強く、友情よりも恋愛を想起させます。ほっぺにキスして「わたし以外の人 好きになっちゃいやよ」(1)とまで言うのだから、トモダチロボットというのは建前で、実際は“コイビトロボット”なのでしょう。
外見は人間と見分けがつきません。のび太、ジャイアン、スネ夫の三人ががそろいもそろって一目で気に入るほどの美少女です。
その見た目とは裏腹に腕力がとても強く、出力はざっと百万馬力とのこと。それにもかかわらず力加減ができません。
短気で気性の荒いロボ子にのび太が愛想を尽かすと、ドラえもんは「いいロボットはかりちんも高いんだよ」(1)と言いました。どうやら、ロボ子はトモダチロボットのなかでもローエンドモデルのようです。
また「借り賃」という言葉からレンタルであることもわかります。藤子・F・不二雄先生によると、ひみつ道具の3分の2はレンタル品(2)とのこと。便宜上、当サイトではレンタル料やレンタル期限はないものとして扱います。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第2巻「ロボ子が愛してる」より。
(2)レンタルのほかにも試供品を使うなどしてドラえもんは出費を抑えています。詳しくは「ドラえもんのひみつ道具は安物の使い捨てだった⁉」を参照してください。
人間と人型ロボットとの恋愛は、是非も可否も明確な答えが出せるものではありません。なにせ突き詰めていけば「愛とはなにか?」という壮大な問題に突き当たるのです。最終的には人それぞれの価値観に委ねるしかないでしょう。
性格に難がある、というロボ子の問題はまた別の話。人型ロボットであることを抜きにしても、そもそもロボ子とはそりが合わない人が多いかもしれません。
多くの人の琴線に触れるのでしょう、「人間と機械(AI)との恋」は、とても人気があるモチーフです。
映画『エクス・マキナ』予告編
映画『her/世界でひとつの彼女』予告編
ロボ子は百万馬力も出力があるのに、力の加減を知りません。そのうえ、目的を達成するためなら、すぐに実力行使に打って出る乱暴者です。ロボ子を連れて外出すると、けが人が出るおそれがあります。
嫉妬深く、独占欲が異常なほど強いロボ子と付き合うのは、それ相応のリスクが伴うしょう。
ロボ子の嫉妬心や独占欲をくすぐれば、特定の人を痛めつけるように誘導することはたやすいでしょう。死に至らしめることすらあり得ます。
見た目だけでロボ子がロボットだとバレることはないでしょう。しかしなにぶん少女型なので、ロボ子と一緒にいるところを知り合いに見られると関係性を問われることになりかねません。
もしもロボ子が他人に危害を加えてしまったら、暴行罪などで逮捕されます。国籍を持たず、身分を証明するものがなに一つないロボ子が逮捕されたら、ただでは済みません。捜査が進めばロボットであることに気がつかれる可能性もあります。
したがってロボ子の外出は控えるべきなのですが、嫉妬心が強くていつでも対象者のそばにいたがるロボ子を家でおとなしく待たせるのは困難です。完全自律型のロボットを秘匿することは簡単ではありません。
「人と見分けがつかないロボット」は、早晩実現するでしょう。そのとき世の中に起こる変化は、良いことばかりではないはず。ロボ子は、我々が遭遇するにはまだ早すぎる存在に思えます。
ロボットを恋人にする心の準備はまだできていません。友達にするならば、“ドラえもん”のほうが楽しく過ごせそうです。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ロボ子の優先度は星 つです。
それにしても“スケジュールどけい”といい“けむりのロボット”といい、藤子・F・不二雄先生は融通のきかない乱暴なロボットがお好きなようです。
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