明日はのび太といつもの仲間たちがハイキングに行く約束をした日なのに雨の天気予報です。ところがのび太は晴れになる自信がありました。なぜならドラえもんにひみつ道具の“お天気ボックス”を用意してもらっていたのです。
ドラえもんのお天気ボックスは、天気を操る機械です。
「晴れ」や「曇り」などの天気がそれぞれ描かれているカードが付属されていて、それを本体にセットすると、近辺の天気が変わります。
屋内で使うと、大気とは独立した気象をその空間だけに生じさせます。例えばのび太の部屋で雪カードを使ったときは、室内に発生した雪雲から雪が降りました。このとき外界の天気はなにも変わりません。
そのため通常は屋外で使います。
天気に左右される事柄は多岐にわたります。自分の都合に合わせて天気を変えられたなら、それはもちろん多大な恩恵となるでしょう。
旅行とか結婚式とか野外フェスとか、そんなどうしても晴れてほしい予定だってお天気ボックスがあればもう安心です。
個人の都合で勝手に天気を変えていいのか、という問題については、責任をもって長期的な天候のバランスをとるほかありません。お天気ボックスの私的利用はとても身勝手であることは肝に銘じておきましょう。
ちなみにお天気ボックスに自作のカードをセットすると、カードに描いた絵柄が具現化してバラバラと降ってきます。
小物の大量生産に使えそうな特性だけれど、具現化した物体は固定化せずにすぐに消え去ると原作の描写から推定されます。よってこの裏技は残念ながら成立しません。
ついうっかり室内でお天気ボックスを起動してしまったら……。風のカードだったら物が吹き飛んで散らかって、雨のカードだったら部屋中が水浸し、雷のカードだったら最悪の場合落雷に打たれて死んでしまいます。
数日程度ならともかく、長期にわたって天気を固定するのは悪質です。農業に大打撃を与えたり、水道の水源を枯渇させたりと、しゃれにならない結果を招きます。
天気が変わるのはお天気ボックスを起動した地域だけとはいえ、その場所しだいでは大きな社会的不利益を生じさせられるでしょう。
天気は日々の生活に関わり合いをもつ現象です。それだけに気象学は研究が進められていて、気象衛星などで常時観測されています。
当然ながらお天気ボックスの効力も観測されます。同じ地域で不自然な天気が続けば注目は避けられません。真夏に雪を降らせたり、台風が通過しているさなかに晴れを維持させたりするなんてのはもってのほかです。
ただでさえ人目につきやすい屋外で使わなければならないのだから、お天気ボックスの運用には慎重な計画性が求められます。
室内にも問答無用で雨を降らせられるお天気ボックスならば、地球とは異なる大気をもつ惑星でも機能するかもしれません。これはテラフォーミング(惑星地球化)の有力な手段になり得ます。
いうまでもなく地球外での実証実験からして一個人では不可能なので、お天気ボックスというひみつ道具の存在を明かさなければなりません。これは由々しき問題だけれど、人類の宇宙進出となればそんな決断も必要でしょう。
なにせ未来から時を越えてもたらされた機械だから、お堅い公的機関ではなく、火星移住計画をぶち上げてるイーロン・マスク(1)あたりに打ち明けるのが近道でしょう。
なにはともあれ実証実験の結果次第なので、革命性は不透明です。
楽しみにしていた予定が雨で台無しに、なんてのはよくある話。お天気ボックスがあれば天気に泣かされることはなくなります。この一点だけで十分すぎる価値があります。
ただしそれはマイナスを防いでいるだけ。人生にプラスアルファはもたらさないから、ひみつ道具にしてはどうにもわくわく感に欠けます。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、お天気ボックスの優先度は星
つです。