テープレコーダーが欲しくてのび太は駄々をこねました。今となっては高齢者と一部の愛好者しか使っていないイメージのテープレコーダーですが、連載当時は一家に一台の家電だったのでしょう。
それはさておき、そんなのび太のためにドラえもんが出してあげたひみつ道具が“ヤカンレコーダー”です。
ドラえもんのヤカンレコーダーは、やかん(ケトル)型の録音再生機器です。主にボイスレコーダーとして使います。
やかんの注ぎ口にあたる部分がマイクになっていて、そこに向かって音を吹き込んでから蓋を開けると、中からシャボン玉のような気泡がフワッと現れます。その気泡を割ると吹き込んでおいた音が鳴り響きます。
ヤカンレコーダーから出る気泡は見た目こそシャボン玉ですが、ある程度固いので、強く叩くまで割れません。手に持ったり床に置いたりしておけるから、好きなタイミングで再生できます。
ボイスレコーダーはひみつ道具を持ち出すまでもない身近なものです。ICレコーダーは高価な機器ではないですし、スマホでも代用できます。
ただしヤカンレコーダーには、録音媒体である気泡自体が再生機能を備えているという特異性があります。再生機器を用意することなく、ただ割るだけで音が再生されます。電気すら必要としません。
この特異性はサプライズ演出にぴったり! シャボン玉を一つ割るたびに一つの想いが語られるなんて素敵です。
しかしそういった使い方は、ヤカンレコーダーの存在を相手に明かすことになります。本来ひみつ道具は現代にはあってはならない存在です。基本的には秘密にするべきだから、有用とはいい難いでしょう。
機能自体は録音再生機器の範疇(はんちゅう)なので、特別な危険性はありません。
ボイスレコーダーの悪用といえば盗聴ですが、かなり近くからマイクに向かって発せられた音しか拾わないヤカンレコーダーは盗聴には使えません。
ちなみに作中では、悪口を吹き込んだ気泡をジャイアンの部屋に窓から放り込んで嫌がらせをしました。これは相手が気泡を割らないと話が始まらないし(1)、証拠が残ってしまいます。いまいち冴えない悪用方法だといえます。
(1)ジャイアンは短気なので、カッとなって割りまくりました。
ヤカンレコーダーは誰かに音声メッセージを伝えてこそ活きるひみつ道具です。けれども気泡を渡すのは、その人にヤカンレコーダーの存在を明かすようなものです。
録音再生機器は珍しいものではないけれど、気泡に音を記録して、割ると再生されるとなると話が別。ふざけた見た目とは裏腹に、真剣にすごいテクノロジーです。
だからといってヤカンレコーダーで社会を動かす大事を成せるかというと、そんなことはありません。
ヤカンレコーダーは見た目も機能も意味があるんだかないんだか、なんともひみつ道具らしい珍品です。不思議な魅力があるけれど、欲しいかというとそうでもない。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ヤカンレコーダーの優先度は星
つです。