スキーやスノーボードを楽しむ人口は、バブル景気が崩壊してから右肩下がり(参考資料: 博報堂生活総研「生活定点」)のようです。手軽さに欠けるスポーツなので、景気に大きく左右されるのかもしれません。
スキー場へ行くとなると日帰りでは慌ただしいし、泊まると出費がかさみます。もしも自宅の部屋でスキーが滑れたら、そんな面倒とはおさらばできるのに……。そんな夢物語を実現するひみつ道具が“おざしきゲレンデ”です。
ドラえもんのおざしきゲレンデは、室内でスキーやスノーボードが楽しめるひみつ道具です。ランニングマシンのように回転するベルトに乗ることによって、その場で滑り続けることができます。
プレイヤーの動きに合わせてベルトの回転速度や向きが自動的に調整されるので、畳一畳ほどの大きさながら左右の動きにも対応しています。
個別にオンオフできるオプションとして、滑りに追従する雪山の風景を室内に立体映像で映し出す機能と、風景に合わせた室温に下げる機能も備えており、まるで本当にゲレンデで滑っているようなバーチャルリアリティを実現します。
ひみつ道具としては珍しく家庭用電源を使います。コンセントは、現代の日本で使われている規格と同じです。
スキーやスノーボードは手軽なスポーツとはいえません。滑れる場所や時期が限られているし、それなりの費用と時間が必要です。
それがおざしきゲレンデならば、はるばるゲレンデまで足を運ばなくてもスキーやスノーボードが楽しめるのです。ウインタースポーツが好きな人にとっては垂涎の的となるひみつ道具でしょう。
さて、おざしきゲレンデが登場する原作エピソード「勉強べやの大なだれ」が描かれた時代には、スキーが上手いことがステータスだったようで、のび太はおざしきゲレンデでスキーを特訓せざるを得ませんでした。
しかし現代ではスキーやスノーボードをやらない人が大半です。滑れなくてもまるで困りません。ウインタースポーツに興味がない人にとっては、ベッドと同程度の置き場所をとる大きさに見合うだけの有用性は見いだせないでしょう。
転べば当然怪我をします。ただ、人や樹木などと衝突することがない分、実際のゲレンデで滑るよりは安全でしょう。
おざしきゲレンデの環境を再現する機能は極端な状況も設定可能で、吹雪に見舞われることすらあります。「勉強べやの大なだれ」では、のび太たちは危うく自室で遭難しかけました。設定を変更する際は、操作を誤らないように注意が必要です。
吹雪を起こした部屋に人を閉じ込めた場合、おざしきゲレンデの知識がなければ部屋からの脱出や、吹雪を停止させることは難しいでしょう。その状況を打開されなければ、いずれは凍死へ追い込めます。
とはいえ、おざしきゲレンデは“四次元ポケット”がなければ簡単には運搬できないので、そういった犯行を秘密裏に実行するのは不可能でしょう。よって悪用には不向きなひみつ道具です。
その大きさからして、同居している人におざしきゲレンデを隠し続けるのは無理な話。一人暮らしでも、引っ越しの際などにどうしても人目についてしまいます。
ただ人に見られたとしても、おざしきゲレンデの見た目は未来的というよりもむしろ古臭いので、バーチャルリアリティ機能を切った状態ならば、それが未来の道具だとは(すぐには)気がつかれないはず。
いずれにしても、同居している人へ(嘘をつくにせよ、本当のことを話すにせよ)説明しなければならない時点で秘匿性が高いとはとてもいえません。
おざしきゲレンデの「回転するベルトを使って雪滑りを擬似的に再現する」という基本機能は、すでに現実のものとなりました。
Skiing and Snowboarding Skiplex
動画はイギリスにある屋内スキー場の「Skiplex」です。見てのとおり正におざしきゲレンデです。
かように基本機能については革新性が失われたおざしきゲレンデですが、立体映像に関してはまだ時代に追いつかれていません。スクリーンも専用メガネも必要とせず、その場に浮かび上がる立体映像は現代でも夢の技術です。
現実と区別がつかない立体映像は革命的です。おざしきゲレンデをしかるべき研究機関へ提供して、それを礎(いしずえ)に立体映像の技術を進化させられたなら、世の中に大きな変化をもたらすでしょう。
娯楽性がとても高いおざしきゲレンデは、あれば楽しいのは間違いありません。けれどもかなりの置き場所をとる大きさがネックです。スキーやスノーボードが大好きで、住宅環境に恵まれている人でないと、持て余すのが目に見えます。
そこまでウインタースポーツにはハマってない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、おざしきゲレンデの優先度は星
つです。