ママの怒った顔は狼男より怖い。のび太はそう思いました。けれどドラえもんに言わせると、いくらなんでも狼男のほうが怖いとのこと。
それならば比べてみようということで、ドラえもんが取り出したひみつ道具が“おおかみ男クリーム”です。
ドラえもんのおおかみ男クリームは、人狼っぽくなれるフェイスクリームです。
これを顔に塗った人が満月みたいに丸いものを見ると、まるでオオカミのような頭に変化します。
変身はすぐに解けて元の顔に戻ります。ただし丸いものを見るたびに何度でも繰り返し変身します。この効力はクリームを水で洗い流すまで継続します。
名称に「狼男」とあるものの、女性にも使えるし、変身中も首から下は人間のままです。
ハロウィンの仮装が楽しめるのはそれがあくまでメイクだから。本当に顔が変わってしまうのは、たとえそれが一時的だとしても受け入れがたいものです。
おおかみ男クリームに価値を見いだせるのは、強い変身願望をもって身体改造に手を出すような人に限られるでしょう。
それにしても後戻りできない「改造」とは違って、おおかみ男クリームは簡単に元へ戻せるから、物足りないはず。どうにも中途半端なひみつ道具です。
人狼は中世なら忌むべきものとして処刑されたでしょう。文明の進んだ現代ならそんな野蛮なことはない? はたして人狼を「個性」として受け入れるほどの寛容さを我々人類は身に着けるに至ったでしょうか。
おおかみ男クリームを使って人狼だと勘違いされたなら、なにが起こるかわかりません。おそらくは嫌な結末を迎えることでしょう。
気に食わない相手が使っているフェイスクリームの中身をおおかみ男クリームにすり替えて陥れる。なんていうモデル業界のドロドロを描いたドラマみたいな悪用が考えられます。
人狼に仕立て上げられた人は気味悪がられて孤立するでしょう。非常にたちの悪い嫌がらせです。
おおかみ男クリームの発動条件はかなり緩くて、満月に限らずとも丸いものならなんでも見ただけですぐ変身してしまいます。しかも変身が解けるのも早いから、変身するさまも素顔も目撃されやすいでしょう。
オオカミへの変身ばかりでなく、本物のオオカミと話せるようになる“月光灯”とは違って、おおかみ男クリームは顔が変わる以外の特殊能力は得られません。
世間を騒がせるので精一杯。なにか大きなことを成し遂げるには力不足です。
健康被害がないと保証されても、肉体を変形させる恐ろしさは軽減されません。人狼のレッテルを貼られてしまうのもまた恐ろしい。
おおかみ男クリームはやすやすと手が出せないひみつ道具です。「とにかく目立てればそれでいい」と言うのなら止めはしません。どういう形であれ、間違いなく有名にはなれるでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、おおかみ男クリームの優先度は星
つです。