すごく絵がうまいクラスメイトの五郎が描いた男の子をしずかちゃんが「すてき」だと褒めるのを見て、のび太は自分もそんな顔になりたいと思いました。その話を聞いたドラえもんが張り切って取り出したひみつ道具が“目鼻ペン”です。
ドラえもんの目鼻ペンは、“取り消しゴム”でのっべらぼうにした顔に、新たな顔を書き入れるペンです。
凹凸は自動的に補完されて、きちんと立体の顔に仕上がります。
原作エピソード「消しゴムでノッペラボウ」では、顔のパーツを消し去る取り消しゴムと合わせて登場しました。しかしセットだとは明示されなかったため、それぞれ個別のひみつ道具として扱います。
「ひみつ道具を一つだけもらえる」という条件下で手に入れられるのは目鼻ペンのみ。取り消しゴムは当然ありません。となると今ある顔になにかを、例えばヒゲやホクロやシワを追加する使い方に限定されます。
それらを取り除いたり減らしたりする美容整形が一大ビジネスとして成り立っているくらいなのに、わざわざ自分から追加したい酔狂な人はごくまれでしょう。
目鼻ペンだけをもらっても、大概の人にとっては無用の長物です。
目鼻ペンで顔に書き入れたものは器官と化すので、取り消しゴムか美容整形でしか消せません。それでも使おうというのなら、一筆入魂の覚悟が必要です。
寝ている人の顔にこっそり目鼻ペンを書き入れて、シワとホクロとシミだらけにしたら、被害者は気が変になるほどのショックを受けるでしょう。ずいぶんむごい所業です。
わざわざ人前で目鼻ペンを使うことはありません。
事故や病気で欠損した顔の再生医療にイノベーションを起こす可能性を目鼻ペンは秘めています。しかしながらこと再生にかけては、以前の状態を完全に復元できる“タイムふろしき”の足元にも及びません。
たとえ取り消しゴムとセットで目鼻ペンをもらったとしても、実写と見間違うほど写実的な絵を描ける画力がなければ意味を成しません。ほとんどの人にとって目鼻ペンは持て余すしかないひみつ道具です。
「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という得難い機会――いや、まあ妄想だけれど――に、そんな使いにくいものをあえて選ぶに足りる理由はない。というわけで、目鼻ペンの優先度は星
つです。