せっかくの夏休みなのに、ジャイアンとスネ夫にばかりか、しずかちゃんにまで仲間外れにされたのび太は、くやしくて、うらやましくて、ドラえもんに泣きつきました。
連載中期までのしずかちゃんは割とそういう冷たい面もある、という話はさておき、財力に物を言わせて先行するスネ夫を追い越すために、ドラえもんが取り出したひみつ道具が“ノーリツチャッチャカじょう”です。
ドラえもんのノーリツチャッチャカじょうは、能率を上げる錠剤です。これを飲むと、物事をなんでもちゃっちゃかと進められるようになります。
この作用は頭の回転と動作の速度を一時的にブーストすることで実現していると推定されます。
また、のび太が服用してプラモデルを作ってから、宿題をやり始めたときにはすでに効力が切れていたことから、持続時間は1時間程度だと推定されます。
ドラえもんからもらえるのは1瓶で、内容量は100錠とします。
この情報過多の時代、やりたいことも、やらなければならないことも多すぎて、どれだけ時間があっても足りません。だからといって自分一人のために世界の時間をひみつ道具で操るのは身勝手にもほどがあります。
そこでこのノーリツチャッチャカじょうです。影響範囲は自分だけ。誰にも迷惑をかけずに、時間を通常の何倍も有効に使えます。
明らかに尋常じゃない速度で行動するようになるから、ちょっと人前では使えません。でも手早く済ませたい用事って、自宅で一人のときにも結構あります。
掃除片づけアイロンがけ、学生なら勉強、社会人なら――その是非はさておき――持ち帰り残業、とにかくいろいろ「やらなければならないこと」をサクッと済ませて、「やりたいこと」のための時間を作りましょう。
やりたいことだって、それが一人で完結できる能動的なものなら、ノーリツチャッチャカじょうの出番です。例えば読書。「読みたい本が多すぎる!」という本の虫には福音となるでしょう。
惜しむらくはノーリツチャッチャカじょうは消耗品で使える回数が限られます。間違いなく有用だけれど、「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえる」という条件下では、だいぶ不利な選択となります。
動作の高速化に相応した頭の回転速度を得られるので、ノーリツチャッチャカじょうの効果中でも、普段と変わらない感覚で行動できます。
これといった問題がないばかりか、危機管理能力も高速化されるため、むしろ身の安全は高まるでしょう。
ノーリツチャッチャカじょうを飲めば、ことの善悪にかかわらず素早く完遂できます。悪事のなかでも素早い手際が必須となるスリを成功させるのにうってつけです。
しかしノーリツチャッチャカじょうの利点は周りに迷惑をかけないことにあります。人を顧みないなら、“タンマウオッチ”で世界の時間を止めたほうが話が早い。
あえてノーリツチャッチャカじょうを選んで悪用する理由はありません。
ノーリツチャッチャカじょうによって高速化された人の行動は、周りから見れば動画を倍速再生しているような違和感バリバリの状態です。
それがひみつ道具の存在にすぐさまつながるわけではないとはいえ、余計な注目は浴びないほうが身のためです。
素直に一人のときだけ使いましょう。
もしもノーリツチャッチャカじょうが量産されたなら、これを服用している状態が人々の常となるかもしれません。そうなれば間違いなく社会の在り方は変わります。
けれどもたった1瓶のノーリツチャッチャカじょうでは、一人の人生を変えるか変えないか程度です。
そう遠くない将来、人類は老化のメカニズムを解明して、不老を実現するでしょう。しかし今この時代に生きる我々は、人生に与えられた有限の時間を少しでも有意義に使うほかありません。
その手助けとなる優れ物がノーリツチャッチャカじょうです。活躍する場面は多々あります。逆にいえば、1瓶だけじゃまるで足りません。
これだけ使用回数が限られていると、ここぞというときにも飲むのをためらいそうです。ゲームで貴重な消耗品を最後まで使えない、俗にいう「エリクサー症候群」の人は、ノーリツチャッチャカじょうもまた使えないかもしれません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ノーリツチャッチャカじょうの優先度は星
つです。