毎度のことながら困った事態に陥ったのび太が泣いてドラえもんを呼ぶと、そこに現れたのは首から下が蛇になったドラえもんでした。
なんでも“合体ノリ”という特殊な糊(のり)を使って遊んでいたと言うのだけど、はてさていったいどんなひみつ道具なのでしょうか。
ドラえもんの合体ノリは、ほかの生きものと合体できる糊です。
これを指先に塗って、生きものに触ると、相手の体が自分に取り込まれます。合体後は、首から下が丸ごと相手の体に置き換わります(1)。
姿だけではなく、相手の能力も自分のものとなります。例えば犬と合体すると鼻が利くようになり、しずかちゃんと合体すると勉強ができるようになります。
合体中の主導権は自分にあるものの、相手の意志や習性もある程度反映されます。
合体は自分の意志でいつでも解消できます(2)。
(1)本稿は第13巻「合体ノリ」を参考しています。プラス第5巻「合体ノリでハイキング」に登場したときは、お互いの体が混ざり合う合体でした。
(2)アニメ版第2作第2期では、原作にはない独自解釈として、分離するにはひみつ道具の“ハガセール”が別途必要だと改変されました。当ブログは原作準拠のため、これを考慮しません。
生存競争を生き抜く戦略は生きものそれぞれです。人類はさまざまな道具を作り出し、それによって肉体の限界にとどまらない活動を可能としたことで繁栄を極めました。
そういった道具のいきつく先がひみつ道具だという話はさておき、ほかの生きものたちが生き抜くために獲得した独自の能力を自分のものにできたなら、それはもちろん有用でしょう。
でも、首から下をまるっと挿(す)げ替えるのが条件となると……。一時的とはいえ、かなりの覚悟が要ります。はたして人の形を捨ててまで手に入れたい能力があるでしょうか。
じゃあ人間相手に使う? いやいや、相手の体と自由を奪う合体ノリを人間相手に使うなんてもってのほかです。
合体ノリをドラえもんからもらっても、そんなこんなで現実に使う機会はなさそうです。
合体ノリで人間以外の生きものと合体した姿はどう見たって「人ではないもの」です。妖怪か怪物か、はたまた宇宙人か。それは恐怖の対象であり、恐怖はときに狂気を呼びます。
一体全体どうなることやら。忌むべき存在として、排除しなければならないと思われるかもしれません。すくなくとも、人として扱われないことは確かです。
その場は逃げおおせても、顔を覚えられたが最後、合体を解除して人の姿に戻っても、迫害は免れないでしょう。
合体ノリで合体すれば、相手の体と自由を奪える、つまり人を「お持ち帰り」できます。これによる拉致誘拐は、決して立証できない不可能犯罪になり得ます。
そこまでしなくても、人の体を無理やり奪う時点で相当悪質です。合体ノリは決して人相手に使ってはいけません。
「人間の顔をした、人間とは違う生きもの」が人に与えるインパクトは強烈です。
人間同士の合体でも、顔と体のバランスが明らかにおかしいと、見た人がぎょっとするでしょう。
合体ノリは人前で使える代物ではありません。
合体ノリでどんな能力を手に入れたとしても、それはすでにこの世に存在していた能力なのだから、世界を変えられはしないでしょう。
のび太とその仲間たちは割とカジュアルに人体に手を加えるけれど、実際問題、大抵の人は怖くて手が出せないでしょう。
わざわざその抵抗感を乗り越えてまで使うメリットが合体ノリにあるかは疑問です。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、合体ノリの優先度は星
つです。