しずかちゃんの家に遊びに行く約束があるのに、のび太はママに留守番を頼まれてしまいました。
どうしても遊びに行きたいけれど、空き巣も心配です。そこで一緒に出かけたいドラえもんはのび太の姿をコピーして門番にすることにしました。
そのときに使ったひみつ道具が“立体コピー紙”です。
ドラえもんの立体コピー紙は、立体物をコピーする紙です。これを広げて物体を乗せると、その物体のレプリカ(複製品)が浮かび出てきます。
このレプリカは風で飛んでしまうほど軽いことから、オリジナル(原型)とは異なる立体コピー紙特有の材質からできていて、コピーされているのは外見だけで中身は空っぽだと推定されます。
また、その材質は柔らかくてフレキシブルです。例えば人間のレプリカなら、ポーズを自由に変えられます。
立体コピー紙で作ったのび太のレプリカを見た誰もが、それを生きた人間だと信じて疑いませんでした。それほどの出来栄えです。本物でなくたって、目で愛でる分には十分でしょう。
もちろん本物に越したことはないから、あえてレプリカで済ますのは、本物を手に入れられない場合です。さて困りました。そんな物をどうやってコピーする?
例えば展覧会の美術品に触るなんて真似は許されません。そもそも、とりわけ貴重なものはガラスケースに収められています。そんな風に「レプリカでも構わない!」と思わせるほどの物は、触ることすら難しいものです。
未来からもたらされたひみつ道具の存在をむやみに明かすのは問題だから、「所有者の承諾を得る」という正攻法もとりにくい。
そういった障害をなんとか乗り越えても、手に入るのが所詮レプリカなのでは労力に見合いません。なにか確固たる目的がないと、立体コピー紙はほこりをかぶることになるでしょう。
立体コピー紙の作るレプリカはとても軽くて、風にすぐ飛ばされます。レプリカを外に持ち出す際は、風に注意が必要です。
ブランド品のレプリカを立体コピー紙で作って売りさばいて一儲け。といっても手に取れば一発で偽物とバレるから、短期決戦で売り逃げるハイリスク・ローリターンの犯行になります。わざわざひみつ道具でやることじゃありません。
狙い目は人間のレプリカ、つまり原寸大ドールです。間近に見ても作り物だと信じられないほど完璧なドール。それはある意味、本物です。
自分をモデルにしたそんなドールを勝手に作られて、どこかの誰かに好きなようにされたら……。ぞっとします。相手の許可なく原寸大ドールを作っちゃいけません。
幸いなことに、「立体コピー紙の上に寝かせる」という条件を無理なく満たせる状況は限られています。行為は悪質なれど、実行は難しく、悪用度が高いとまではいえないでしょう。
その紙は、物を乗せるだけで像が瞬時に写って、それがムクムクと膨らんで立体像になる。現代の常識ではあり得るはずのない存在です。人には見せられません。
ただし私的な複製が目的なら人前に出さずに使えます。そしてモラルに反さない立体コピー紙の用途は私的な複製に絞られます。
しからば立体コピー紙の秘匿性をあげつらうのはお門違いというものです。
立体コピー紙によるレプリカは材質や機構が再現されていない、見た目だけの空虚な物です。
それで成し遂げられるのは、やはり身のない空虚なことだけでしょう。
オープンスペースで開催されていたイベントに「アヴェンタドール アニヴェルサリオ(マットブラック)」というスーパーカーが展示されていたときのこと。その車は圧倒的な存在感を放っていて、そこを通る誰もが足を止めて見とれていました。
あれほどの車なら、走行できなくとも、ただ飾って眺めるだけでも十分な価値があるでしょう。よし、ならば立体コピー紙でコピーだ! と簡単にはいかないところが肝です。立体コピー紙の発動条件は地味に厳しいものがあります。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、立体コピー紙の優先度は星
つです。