一緒に飛行機を作る約束をのび太としていたドラえもんが迎えに行くと、のび太はジャイアンに野球の練習を強制されていました。
そこでジャイアンを追っ払ってのび太を自由にするためにドラえもんが使ったひみつ道具が“人間ラジコン”です。
ドラえもんの人間ラジコンは、人間を無線操縦するコントローラーです。
ボタンを押すと、豆粒大の受信機が側面の射出口から発射されます。その受信機を人に当てるとひっついて、その人の歩行をレバーで思うまま操れるようになります。
人間ラジコンが操るのは対象者の歩行に関する下半身の動きだけで、上半身と意識には影響しません。また、レバーをニュートラルにしているあいだは、対象者の自由に歩けます。
操縦を人間ラジコン任せにする自動操縦モードも搭載しています。
付属する受信機の数は1個で、回収して装填すれば繰り返し使えると推定されます。
銃のように受信機を撃って人に当てるお膳立てからして穏やかではありません。相手の承諾を得ずに無理やり歩行の自由を奪うのが前提なのは明らかです。それを有用とはいえないでしょう。
人間ラジコンの使用を正当化できるのは、相手に非がある場合に限られます。暴漢に襲われたときなど、相手の歩行を制御すれば身を守れます。原作でもジャイアンの支配から逃れるために使われました。
ただしそういった相手に付けた受信機を回収するのはリスクが高すぎるので、1回限りの使い捨てとなってしまいます。防犯グッズとしてもいささか凡庸です。
人間ラジコンの自動操縦モードは場当たり的で、安全対策がとられていません。自動操縦のまま放っておくと、対象者を交通事故に遭わせてしまうおそれがあります。
歩行の自由を人から奪う時点ですでに悪事です。
そればかりか人を高所から落としたり、駅のホームから電車に飛び込ませたりすることすらできてしまうのだから、人間ラジコンはなかなか恐ろしいひみつ道具です。
とはいえ犯行を重ねるには、被害者から受信機を回収するリスクを冒さなければなりません。これが悪用度を抑える歯止めとなります。
人間ラジコンの支配下に置かれても、対象者の意識ははっきりしています。自分の身になにが起こっているのか理解できなくとも、何者かに操られているような感覚は覚えるはずです。
したがってコントローラーで操作している姿は対象者に見られないようにしたほうが賢明でしょう。ポケットなどに隠して手探りで操作するのも物理コントローラーだから容易です。
問題は受信機を付けるときです。着衣の上からでも機能するとはいえ、薄着だと敏感な人なら気づくでしょう。命中させるためにはかなりの至近距離まで近づかないとならない点も相まって、こっそり付けられる状況は限られます。
社会とは人の相互作用から成り立ちます。人を操れたなら、それは社会を変革する第一歩です。
しかし「人を操る」とは「人心掌握」にほかなりません。人の心をつかむ“ジーンマイク”や“刷りこみたまご”ならともかく、歩行を掌握するだけの人間ラジコンで革命は起こせません。
人の歩行を無理やり操るなんてのは、とにかくまあたちが悪くて、夢の広がる使い道が見出せません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、人間ラジコンの優先度は星
つです。