もしも「ジーンマイク」をもらったら

先生の説法が胸にジーンときたのび太は、同じ話を人に聞かせて自分のように感動させようとしました。

けれど「なにを話すか」より「誰が話すか」で聞き手の印象はガラッと変わるもの。のび太の話は誰もまともに取り合ってもらえませんでした。

そんなのび太のためにドラえもんが出してあげたひみつ道具が“ジーンマイク”です。

機能と効果

ドラえもんのジーンマイクは、人を「ジーン」と感動させるマイクです。このマイクが拾った音を聴いた人は、たとえその音がオナラだとしても、強烈に胸を打たれます。

ドラえもんによると「感動周波音波がでて、きく人の脳をゆさぶってジーンとさせる」(1)そうです。なおジーンマイクに触れている人は感動周波音波が効きません。

(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第9巻「ジーンと感動する話」より。

有用性: ★★★☆☆

機械的に呼び起こされた感動に価値はある?

例えば、ストレス解消を目的として意図的に感動の涙を流す活動、いわゆる「涙活(るいかつ)」は、感動に至った過程より、感涙したという結果が重視されます。

そんな涙活が一定の需要を集めているのだから、ジーンマイクによる感動がたとえ内容の伴わないものだとしても、価値は認められるのでしょう。

感涙によって人のストレスを解消させるすべとしてジーンマイクはうってつけです。

どんなドラマ(サイレント映画を除く)も名作に、どんな音楽も名曲に、どんな人――その人の中身が空っぽでも!――の話も名演説に早変わり。ジーンマイクがあれば音にまつわるすべてのものが輝き出します。

ただし! ジーンマイクはいわば催眠術なので、相手の承諾を得ずに使うのは重大なモラル違反です。

危険性: ★★☆☆☆

ジーンマイクによる感動は実に熱狂的です。たとえプラスの感情でも熱狂はときとして人を惑わせます。時と場所を選んで使わないと、期せずして大きな騒ぎになる恐れがあります。

悪用度: ★★★★★

まったくもって薄っぺらな言葉ですら、ジーンマイクを通せば神のお告げがごとし金言に聞こえます。

「言葉巧み」ならぬ「言葉稚拙」に人を虜(とりこ)にして、悪徳セールスやら振り込め詐欺やらなんやらと、やりたい放題です。

なんなら偽宗教をでっちあげて教祖として君臨して、巨万の寄付金を集めることすらたやすいでしょう。

ジーンマイクはなかなかに悪質なひみつ道具です。

秘匿性: ★★★☆☆

ジーンマイクによる感動のさなかにいるあいだは、その感動に疑問――なぜ自分はオナラの音に感動しているの? とか――を微塵(みじん)も抱きません。しかし後から思い返せば不審に思うこともあるでしょう。

あまりに感動とかけ離れた音にジーンマイクを使うのは秘匿性の面で得策ではありません。

革命度: ★★★★☆

選挙演説にジーンマイクを使えば当選間違いなし。政治家になってからも演説のたびにジーンマイクを使えば、またたくまに頭角を現すことでしょう。

感動周波音波は放送機器を通すと効き目がない(と推測される)ため、「国民を一斉に感動させる」とはいかないものの、国を変えるほどの影響力を握る足掛かりになり得る力をジーンマイクは秘めています。

まとめ

スピーカーの前にジーンマイクをセットしておけば、テレビや音楽を垂れ流しておくだけで、ずっと感動していられます。

でもそれってドラッグで多幸感に溺れるのとなんら変わりません。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ジーンマイクの優先度は星1.5つです。

道具名称:
ジーンマイク
原作初出:
『ドラえもん』第9巻「ジーンと感動する話」
カテゴリ:
「し」で始まるひみつ道具 / 『ドラえもん』第9巻 / 人心掌握 /
公開日:
2017年05月15日

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