「ククク……シナリオどおりだ」とかなんとか言っちゃう漫画的なシチュエーションに憧れないこともない人は多いでしょう。
そういうセリフを吐く登場人物は得てして人心掌握術を駆使しているけれど、もっと手っ取り早くシナリオどおりにことを運んでしまえるひみつ道具が“シナリオライター”です。
ドラえもんのシナリオライターは、【Scenario Writer】ならぬ【Scenario Lighter】、人をシナリオどおりに動かすライターです。
シナリオを書き入れた紙を筒状に巻いて、本体下部の挿入口に入れます。そして火をつけると、シナリオで指定された人物がその内容に忠実に行動し始めます。
シナリオライターの支配下におかれた人は、どうしてそのような言動をしているのか、自分でもわけもわからないままシナリオを完遂します。たとえ意に反することでも、やってしまいます。
効果を及ぼすのは火をつけているあいだだけ。火が消えると、シナリオの進行中でも中断されます。その場合、再び火をつければ続きから再開します。
効果範囲は明示されていません。原作エピソードにおける描写を鑑みるに、10メートル程度だと推測されます。
人を思うままに操れるシナリオライターを用いれば、あらゆる場面で特別な計らいを受けられます。しかし相手の意思をないがしろにして操り人形にすることが許されるはずもありません。
相手の了承が得られることなら正々堂々と頼めばいいのだから、シナリオライターは気持ちとは裏腹な言動を人にとらせるのが目的のひみつ道具だといっても過言ではないでしょう。なんとも物騒な話で、とてもじゃないけど有用とはいえません。
セットしたシナリオに不備があっても、シナリオライターはそれを愚直に再現しようとします。「シナリオの文章がつたなかったせいで、意図とは違う悲惨な結果を招いてしまった」なんてことにならないように、十分な推敲が必要です。
とはいえ、火を消せばシナリオはすぐさま中断されます。そこまで神経質にならなくても大丈夫でしょう。
人の気持ちや都合を踏みにじることをいとわないなら、あらゆる便宜を不正に受けられます。契約関連などは既成事実を一度作ってしまえば、シナリオライターの支配下から解放したあともそう簡単には反故(ほご)にはされません。
さらに邪悪なのが卑猥(ひわい)なシナリオや、死者が出るシナリオです。そんなシナリオを強行する不届き者は、地獄に堕ちて業火に焼かれることでしょう。
ライターの火をつけっぱなしにして持っている人は、「怪しい人」として周りから警戒されるはずです。今のご時世、小さなお子さんを連れて神経質になっている親御さんなどに、不審者として通報されるかもしれません。
また、シナリオライターの支配下におかれても、自分の意識は残っています。なんらかの力で自分が動かされているのは明白です。その場にライターの火を掲げている人がいたら、そこに疑惑の目が向けられるでしょう。
火は太古から呪術的な意味合いを持っています。人体操作との因果関係をシナリオライターに見いだすのは自然の成り行きです。
シナリオライターで権力者を傀儡(かいらい)にすれば、社会を裏から操れます。しかし、いかんせんシナリオライターは効果範囲が狭いので、ことはそう簡単にいきません。サクッと“ポータブル国会”でも使ったほうが話が早そうです。
人を無理やり操ることに疑問を覚えないとしたら、それは共感力が欠如した、いわゆるサイコパスでしょう。己の欲得を優先することがあながち間違いともいえないにしたって、もっとうまいやり方があるはずです。
数あるひみつ道具の中から、わざわざこんなものを選ぶことはない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、シナリオライターの優先度は星
つです。