ドラえもんが転んだ拍子に“四次元ポケット”の中身があふれ出ました。いくらでもしまえるとはいえ、整理は必要です。そこで使い物にならないひみつ道具を空き地に埋めて捨てることにしました。
それって不法投棄なのはさておき、捨てるひみつ道具の中にのび太は気になるものを見つけました。その一見便利そうなのにドラえもんが捨てると言って聞かなかったひみつ道具が“ねがい星(ぼし)”です。
ドラえもんのねがい星は、願いをかなえてくれる星です。この宙に浮き発光する星形の物体に願いを伝えると、どんな願いごとでも実現してくれます。
ただしねがい星はとてつもない頓珍漢(とんちんかん)です。たい焼きを所望すればタイヤと木をよこし、お金を所望すればくず鉄をよこし、香水を所望すれば洪水を起こす始末です。
ドラえもんはねがい星のことを「勘違いばかりする」と評しました。悪意をもってわざと間違えているのではなくて、天然の勘違い屋のようです。それなら、うまく誘導すれば願いはかなえられます。
ねがい星に回数制限はありません。納得のいく結果が得られるまで、何度でも願いを繰り返せます。とはいえこれはリターン以上の代償を伴うかもしれない危険な賭けとなるでしょう。
高いリスクを負う覚悟のある者だけが使えるひみつ道具です。
ねがい星が要求と違う物を寄こすのはまだ許せます。問題はそれが宙から頭上へ降ってくる点です。
スネ夫がねがい星にお金を要求したときなんて、鉄骨の破片が頭に落ちました。脳挫傷をきたしてもおかしくない災難です。
そればかりかねがい星は洪水まで起こすのだから、「お前、本当は殺(や)る気満々だろ!」と疑いたくなります。
洪水で家が水浸しになって逆恨みしたスネ夫がねがい星に「のび太の部屋に雨を降らせろ」と願うと、雨ではなく飴(あめ)が降りそそいで、のび太とドラえもんは大喜びしました。
これはねがい星の恐ろしさが垣間見える事例です。なぜかというと、ねがい星の効力が第三者にもたらされたからです。
降りそそいだ物によっては二人とも重傷を負っていました。たまたま飴だったから笑い話になったのです。
ろくでもない勘違いばかりするねがい星の矛先は、決して人に向けてはいけません。
ねがい星の勘違いは同音異義語だけとも限りません。なにが起こるかを予測するのは困難を極めます。思わぬ形でねがい星の存在が露見してしまうかもしれません。
世の中を変えられるかもしれない強大な力をねがい星は秘めています。
けれどその力が存分に発揮されることはないでしょう。壮大な願いは勘違いで矮小化されて、陳腐な結果を招いて仕舞いです。
万能なひみつ道具はねがい星のほかにもあります。中でも『ドラえもん』の最終回にまつわる“ウソ800(エイトオーオー)”は願いをかなえるのに代償を必要としません。
「星に願いを」だなんてロマンチックだけれど、斜め上を行くねがい星であえてリスクをとるまでもないでしょう。
Lexi Walker - When You Wish Upon A Star
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ねがい星の優先度は星
つです。