鼻持ちならないスネ夫が自慢のこいのぼりをひけらかしていると、それを聞いていたタバコ屋のてっちゃんが泣き出してしまいました。てっちゃんの家は家計が厳しくて、こいのぼりを買う余裕がなかったのです。
そんなてっちゃんのためにドラえもんが一肌脱いで取り出したひみつ道具が“こいのぼりそうじゅうき”です。
ドラえもんのこいのぼりそうじゅうきは、こいのぼりを生きた魚のように化するひみつ道具です。
付属するツボ(1)を開けると、中からムクムクと特殊な雲が出てきて、室内が「雲の池」になります。そこでこいのぼりそうじゅうきを起動すると、室内のこいのぼりがまるで生きているかのように泳ぎだします。
それらのこいのぼりはしばらくすると卵を産み、ほどなく孵化(ふか)します。稚魚は体長20cmほどの小さなこいのぼりです。かしわ餅を餌として食べて、その日のうちに親と同じ大きさまで育ちます。
こいのぼりを操縦したいときは、こいのぼりそうじゅうきをかざしながら命令をかけます。
原作エピソードで成長したこいのぼりを雲の池から出してよその家まで泳いで行かせたことから、雲の池は放卵や成長にのみ必要だと推測されます。
(1)原作でこのツボに道具名がつけられていないことを鑑みて、独立したひみつ道具ではない付属品と判断しました。
ドラえもんとのび太がこいのぼりそうじゅうきを使った目的は、こいのぼりを操縦するためではなく、増やすためでした。
たしかにかしわ餅はこいのぼりよりも安価です。けれども元手となるこいのぼりを用意しなければならないし、育てる手間もかかることを考えると、お得感は今一つ。これでは手ごろな価格のこいのぼりを買ったほうが話が早いというもの。
いちおう、端午の節句シーズンにこいのぼりを増産してフリマアプリで出品すればこづかい稼ぎにはなります。
こいのぼりが大空を生きた魚のように泳ぐさまは見応えがあるとはいえ、あまりにも目立ちすぎます。無駄な騒ぎを起こしてしまうので、こいのぼりの操縦については控えるべきかもしれません。
こいのぼりが人に危害を直接加えることはないでしょう。ただし乗り物の通行を邪魔してしまったら事故になるおそれがあります。
こいのぼりがヘリコプターのローターに絡まったり、飛行機のジェットエンジンのエアインテークに吸い込まれたりすると、墜落の原因になります。こいのぼりに航空機を襲わせるのはとても悪質な行為です。
こいのぼりが生きているかのように空を泳ぎまわるのは、誰がどう見ても超常現象です。とてもじゃないが人前に出せる代物ではありません。
無生物のこいのぼりが繁殖する⁇ 我々の知る物の道理をはるかに超越しています。こいのぼりそうじゅうきは神の領域に踏み込んだひみつ道具なのかもしれません。
こいのぼりに特化されたこいのぼりそうじゅうきは、使いどころがそうそうない、なんともニッチなひみつ道具です。もらっても困りはしないけど、数あるひみつ道具を差し置いて、あえてこれを選ぶ理由は見つかりません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、こいのぼりそうじゅうきの優先度は星
つです。