難色を示すドラえもんにのび太が「どうしても使いたい」と食い下がっています。いったいなにを使いたがっているのでしょう。その不穏な空気からして、ろくなものではなさそうです。
ついに泣き落としにかかったのび太にドラえもんは根負けして、それをしぶしぶのび太に貸しました。のび太がどうしても使いたかったひみつ道具、それが“マジックハンド”です。
ドラえもんのマジックハンドは、空間を越えて力を加えるグローブです。
これをはめた手を動かすと、その力が数メートル先に伝わります。つまむ、殴る、押さえる、くすぐる、なんでも自由自在です。
狙い(力の焦点)の合わせ方と、有効距離と、感触のフィードバックについては不明です。
原作における描写や、ほかのひみつ道具の例からして、狙いは着用者の意志を読み取って自動的に合う、有効距離は最大3メートル程度、感触のフィードバックは有る、と推定されます。
マジックハンドなら危険物を直接手で触れることなく扱えます。といっても、日常生活でそんな必要に迫られることは滅多にありません。
黒光りするあいつを叩き潰すのに使える? いや、感触がフィードバックされる、つまりグローブ越しに触った感覚があるからNGです。
マジックハンドの効力が存分に発揮する「まっとうな目的」は、どうにもなかなか見いだせません。
ドラえもんがマジックハンドを貸し渋ったのは、おそらくこれの使い所がろくでもないことばかりだからでしょう。
感触のフィードバックがある(と推定される)ものの、はめている手が負傷するほどの強い反動は受けないでしょう。
マジックハンドを手に入れたのび太は、「この恨み! 晴らさせおくべきか!」とばかりに、物陰からジャイアンをボコボコにしました。
それで調子に乗ったのび太はドラえもんの制止を振り切ってドブに落としたり、しずかちゃんの脇腹をこっそりくすぐったり(やらしい!)して回りました。
突き落とした先がドブではなく急な下り階段だったら? 脇腹をくすぐるよりもっと卑猥(ひわい)なことだったら?
かようにマジックハンドの効力はきわめて悪質です。
ターゲットの近くでパントマイムのような怪しい動きをすることになるけれど、それと被害との因果関係を現代の科学知識で証明する手立てはありません。
それにダース・ベイダーのように手を触れずに人の首を絞めるとかならともかく、突き落とす程度の所作ならば、いくらでもごまかせます。
ごつい見た目のグローブをはめて、ターゲットに有効距離まで近づいて、手を宙に動かして……。マジックハンドを使う姿はなかなか不自然です。
とはいえ「マジックハンドとターゲットが光の筋でつながる」というような目に見える現象が起こるわけでもないし、時と場所を選ぶことで必要最低限の秘匿性は確保できるでしょう。
マジックハンドの出力は使用者の腕力に準じます。そのうえ有効距離は数メートルです。この制約の中で革命を起こせるはずもありません。
マジックハンドが実現している現象は、つまるところ疑似的な念力(テレキネシス)です。そしてひみつ道具には、本物の念力が自分のものとなる“E・S・P訓練ボックス”もあります。
念力がけっして大っぴらには使いない力であることを考えると、なにやら怪しいグローブの着用と手振りが必須となるマジックハンドは致命的な欠点を抱えているといえます。
やはり本物の念力にはかないません。3年前後の訓練が必要だろうと、総合的にはE・S・P訓練ボックスのほうがはるかに勝るでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、マジックハンドの優先度は星
つです。