お正月をのんびり過ごしたいのに、パパの勤め先の社長が家に押しかけてきて、全然くつろげません。そこでのび太とドラえもんは、あの手この手で社長を追い返そうとしました。
そのときに決め手となったひみつ道具が“空間ひんまげテープ”です。
ドラえもんの空間ひんまげテープは、空間をひん曲げるテープです。
このテープを適度な長さに切って、片端を裏返して、もう一方の片端にくっつけて輪にします。いわゆる「メビウスの帯」です。これをドアに貼ると、前後の空間がこんがらがってつながります。
原作エピソード「いやなお客の帰し方」では、玄関ドアの室内側に貼ると、外から家に入ろうとしても、そのまま玄関から外へ出てしまうようになりました。
このとき家の中から玄関を通った場合にどうなるかは描かれていません。おそらくは家から外へ出ようとすると、そのまま玄関から家に入ることになると推測されます。
ドア以外に使えるかは不明(1)。便宜上、空間ひんまげテープはドア専用だと仮定します。
(1)アニメ版(第2作第2期)ではドア以外にも使われました。当サイトは、藤子・F・不二雄先生が亡くなられてから追加・変更された設定は考慮から外しています。
空間ひんまげテープは要するにドアを使い物にならなくするひみつ道具です。あまり良い意味では使われない「ひん曲げ(が)る」という言葉が名前に入っているだけあって、主だった用途は人を困らせることでしょう。
なにも知らずにこのドアを通ったら、なにが起こったのかまるで理解できなくて、激しく頭が混乱するはずです。自分の頭がおかしくなったとすら思うかもしれません。
いたずらにしても度が過ぎます。でも困らせたって構わない相手もいます。例えば侵入者。玄関ドアに貼っておけば、ピッキングなどで鍵を開けられたとしても、中へは入られません。
その常識を超越した現象の原因が、まさかテープにあるとは思いもよらないはずだから、空間ひんまげテープを剥がされて効力を解除される心配もないでしょう。
空き巣や押し込み強盗、一人暮らしの女性を狙う卑劣な暴漢などの侵入を防ぐ、物理的に効果のある「お札」となります。
空間ひんまげテープを貼っても、ドア自体の両面が表になったりはしません。どちら側からドアを開けても空間ひんまげテープは剥がせます。
「部屋から永遠に出られなくなる」というような状況に陥る危険性はありません。
窓がなくて、ドアは一つ。そんな部屋のドアに空間ひんまげテープを貼ったら?
そこに閉じ込められた人は、空間ひんまげテープの秘密を解き明かさない限り、脱出できません。
「部屋を出ようとしても、なぜか部屋に戻ってしまう」という悪夢のような閉鎖空間の中で、人はどれだけのあいだ正気を保てるでしょうか。
空間のゆがみに直面したとき、冷静に状況を判断して、原因を突き止められる人なんていやしない――とは言いきれません。
すくなくとも今これを読んでいるあなたなら、「もしかして空間ひんまげテープ⁉」と思い当たるでしょう。
マイナーなひみつ道具とはいえ、『ドラえもん』の知名度からして、かなり大勢の人が空間ひんまげテープを知っているはずです。
剥がして持っていかれるとまずいことになります。不特定多数の人が通過するドアに空間ひんまげテープを使うことはおすすめできません。
空間ひんまげテープは実のところ不条理極まりないひみつ道具です。
ドアの通行面を境界にして空間が折り返しているなら、そこは(鏡像ではなく実像が映る)鏡のように見えるはずなのに、原作ではそうは描かれていません。その空間でいったいなにが起こっているのでしょうか。
そもそも我々が存在しているこの「空間」とは?
空間ひんまげテープによる空間のねじれを観測すれば、宇宙の成り立ちを解明する糸口になるかもしれません。
空間ひんまげテープが発動したドアを通ったら、空間認識が揺さぶられて、脳がぐるぐるするような刺激が得られそうです。かなり興味をそそられます。
それにこれがあれば、もしもゾンビパニックが起こっても、安全な拠点を確保できるし……、なんて余計な妄想も広がるけれど、実生活で役立つ場面はほとんどないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、空間ひんまげテープの優先度は星
つです。