もしも自分がほかの家に生まれていたら……。
そんな妄想を思春期にした覚えのある人は、きっと多いはず。その「もしも」を垣間見られるひみつ道具が“家族合わせケース”です。
ドラえもんの家族合わせケースは、親子の組み合わせを取り替えるケースです。
一人で写っている親と子供の写真を複数組そろえて、親子の組み合わせを取り替えて一組ずつこのケースに入れると、親はその子供が実子だと思い込むようになります。
このとき、実子に対する感情と記憶を継承します。たとえばのび太とペアになったしずかママは、「のび太さん」と呼びつつも、しずかちゃんを怒鳴ったときのことを「さっきのこと、許してね」とのび太に謝りました。
これらの効果は親にだけ生じます。子供側に与える効果はいっさいありません。
家族合わせケースから写真を取り出すと効果が切れて元に戻ります。よその子供を実子だと思い込んでいたことに関する疑念は残りません。
3個で1セットのひみつ道具とします。よって、最大で3組の親子を同時にシャッフルできます。
家族合わせケースが登場した原作エピソード「ママをとりかっこ」を読めば瞭然、これは子供に現在の親のありがたみを気づかせるためのひみつ道具です。
「隣の芝生は青い」ということわざがあるくらい、人のものは不思議とよく見えます。でもそれは上辺だけが見えているからに過ぎません。本質を知れば目が覚めるものです。
けれど親子を取り替えるなんて極端すぎる荒療治です。うまくいくとも限りません。よほど切迫した親子関係に陥ってなければ、こんなリスクをとるのは早計でしょう。
よそからではわからない秘密や想いが家族にはあるものです。憎しみ合っている親子もいることでしょう。親子を取り替えると、不測の事態に巻き込まれる危険性が大いにあります。
家族合わせケースとの親和性が並外れて高い犯罪があります。そう、オレオレ詐欺です。電話も振り込みも使わずに、対面で一切疑われることなく犯行を完遂できます。
子供に完璧に成りすませるのだから、さまざまな犯罪がやりたい放題です。
また、たとえ教育やしつけが目的であったとしても、相手側に許可を取らずに親子と取り替えるのは犯罪です。
家族合わせケースの効果が切れても、親子が取り替えられていたことに関する疑念は残りません。
とはいえ、実際に行動を共にする以上、なんらかの形で記録が残ってしまう恐れがあります。
知人に使った場合の秘匿性はなきに等しいでしょう。かといって、見ず知らずの人に無断で使うのは、前述したように犯罪です。
家族合わせケースが世に広まれば、今の子供が本当に我が子なのか誰も確信が持てなくなるというとんでもない世の中になってしまいます。
もっとも現代のテクノロジーでは、家族合わせケースを解析して量産化するのは不可能でしょう。
知らぬが仏。隣の芝生の本当の色なんて、知らなくていいんです。家族合わせケースを使っても、人生がいいほうへ転がるとは思えません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、家族合わせケースの優先度は星
つです。