みんなの前で歌ったジャイアンが、俺の歌を聴くとしびれるだろ、と同意を求めました。本当はしびれやしないけど、みんなジャイアンが怖くて仕方なく賛成しました。
のび太はそんなインチキじゃなくて、本当に人をしびれさせてやりたいと思いました。そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“ちく電スーツ”です。
ドラえもんのちく電スーツは、静電気を蓄電するボディスーツです。
これを肌にじかに着て動き回ると、ものすごい勢いで静電気が発生して、どんどんたまっていきます。そして近くにいる人に向けてかすかに放電して、体表をピリピリとしびれさせます。
ただし付属品のアースを付けなかった場合は、電気がたまり過ぎて、すさまじい放電が始まります。
原作における描かれ方からして、ちく電スーツの主な目的は、自分に近づく人をわずかにしびれさせることです。
なぜそんなことをするのか。それはいわゆる「つり橋効果」が狙いでしょう。
つり橋効果とは、感情と生理現象には可逆性があるとする説です。
「好き → ドキドキする」という通常の経路とは逆の「ドキドキする → 好き」も成立するため、つり橋などのドキドキする場所で対面すると、その人を好きになってしまう効果です。
人は心を奪われたときに体がしびれたように感じます。そこでちく電スーツでしびれさせて、心を奪おうというわけです。
つり橋効果も込みで「信じるか信じないかはあなた次第!」な話だけれど、試してみる価値はなくもないかもしれません。
ちく電スーツにアースを付け忘れて放電が暴走すると、周囲の人に激しい電気ショックを与え続ける危険な状態に陥ります。着用者が感電することはないからといって、アースの装着をおろそかにしてはいけません。
また、静電気は電子機器の大敵です。アースの有無にかかわらず、ちく電スーツを着ているときは、精密機器を触らないようにしたほうが賢明でしょう。
アースを外したちく電スーツを着た人は、さながら歩くスタンガンです。
ただし近くの人を手当たり次第に感電させる無差別攻撃になります。よほど強い破壊願望がなければ実行に移せません。
実行したとして、人々が次々と倒れるさなか、その中心地に平然と歩く人がいれば、誰が加害者なのかは一目瞭然です。
近づいて捕らえることが不可能となれば、発砲もやむなし。ここ日本ではレアケースの警察官による射殺で幕を閉じるかもしれません。
生きて逮捕されても、無差別テロとも呼べる蛮行なので、かなり重い量刑が科せられるでしょう。破壊願望に加えて、破滅願望も必要です。
せっかくドラえもんからひみつ道具をもらえるというのに、なにも望んで破滅の道を歩むことはありません。
ちく電スーツ自体は肌の上に直接着るボディスーツだから、普通に長袖とロングパンツを着るだけで隠せます。
放電効果に関しても、アースを付けた状態の微弱な電流なら、どこから放出されているかはなかなか悟られないでしょう。
もちろん、アースを外して派手に立ち回った場合は論外です。
ちく電スーツのつり橋効果は決定的とはいえません。攻撃手段としても、既存の兵器を凌駕していません。
恐るべきは、その驚異的な発電効率です。こればかりは現代の常識を超越しています。それでも、ただ1着だけでは社会に影響を及ぼすまでのエネルギーは生み出せないでしょう。
暴力をちらつかせて「しびれる」とみんなに言わせたジャイアンも、電気で物理的にしびれさせたのび太も、どっちもどっちです。
「しびれさせたい」とはすなわち「人の感情を揺さぶりたい」です。電気で体をしびれさせたって仕方がありません。
せめて電気を放電する対象を自由に選べたら、アメコミヒーロー的な活躍もできたかもしれないのに。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ちく電スーツの優先度は星
つです。