毎年恒例のクリスマスパーティーを今年は誰の家でやるか、のび太と同級生たちで話し合ったすえ、あばら谷くんの家に決まりました。
ところがあばら谷くんの家は名字のとおりあばら家(粗末な家屋)だったのです。パーティーで集まるには余りにも狭くて、幼い兄弟たちが皆そのあいだ外で過ごさなければなりません。
そんな事情を知ってのび太が申し訳なく思っていたところ、ひょんなことから解決策をひらめきました。それはドラえもんの“重力ペンキ”を使うことでした。
ひみつ道具の重力ペンキは、塗った所が「下」になるペンキです。
その名のとおり重力を操ります。地球が及ぼす万有引力と遠心力は織り込み済みで、重力ペンキを塗った面に対してきっちり垂直に1Gがかかるように調整されます。
例えば「天井に塗ったら地球の重力と引き合って宙に浮いてしまった」とか「壁に塗ったら地球の重力と合わさって斜めにGがかかる」みたいなことは起こりません。塗った所がまさしく「下」になります。
原作でドラえもんたちは、重力ペンキを壁の一部に塗ってそこを棚の代わりにしたり、壁と天井の一面に塗って床として使える面積を広げたりして活用しました。
このように重力ペンキは、収納不足や手狭な部屋を補うのに便利です。
例えばワンルームなら、天井にベッドを移せば部屋がかなり広くなります。ベッドのほかにも背の低い家具なら置けるから、天井が寝室になるといっても過言ではありません。簡易的とはいえ一部屋増えたも同然です。
家具が面している部分の壁に塗って地震による転倒を防止するなど、重力ペンキはアイデア次第で可能性が広がるひみつ道具です。
賃貸物件の壁にペンキを塗ると面倒なことになるので、はがせる壁紙シールなどで下地を作る手間が余計にかかります。加えて重力ペンキのピンク色が気に入らなければ、更にその上に壁紙を貼るなど面倒が重なります。
結構な手間がかかるけれど、その苦労に見合う価値はあるでしょう。
インテリアを考える楽しみも増えます。収納も床面積も申し分のない物件でも、ちょっと変わったインテリアにしたいなら重力ペンキの出番というわけです。
四方八方に重力ペンキを塗った場合、どこでどのように重力が切り替わるのかは不透明です。重力ペンキが塗られているエリアから出るときや、違う角度のエリアに移るときに、転倒したり墜落する恐れがあるでしょう。
また壁や天井は、物を置いたり人が歩いたりすることは考慮されていません。突き破ってしまわないようにする配慮が求められます。
階段の垂直面に重力ペンキを飛び飛びに塗ると、通行者の転倒を引き起こせるかもしれません。
人に重力ペンキをぶちまけるのも悪質な行為です。体中に重力ペンキが塗られている状態がどのような作用をもたらすかは予測不能です。
アメリカのオレゴン州にある「オレゴンの渦」は、重力や磁場が狂っている場所だと主張している娯楽施設です。実際には錯視を利用しているだけだと推測されるけど、なんにせよ観光名所になるほどのインパクトがあります。
うそ偽りなく重力を変える重力ペンキを使った場所が人に与えるインパクトは、オレゴンの渦の比ではないほど大きいはず。重力ペンキを活用した自宅には、間違っても人を呼べません。
素粒子に働く力のすべてである「四つの力(基本相互作用)」の一つが重力です。なにやら難しい話だけれども、とにかくこの宇宙を成す根本的な力だということです。重力を操るのは、一般的に考えられている以上に革命的なことなのでしょう。
重力ペンキの基本的な用途は、収納や床面積が不足している物件の拡張です。それならば、ほかのひみつ道具でドでかい住居を構えたほうが手っ取り早いというもの。
映画『ドラえもん のび太の宝島』の大事なシーンで使われたように思いのほか夢が広がるひみつ道具とはいえ、消耗品ゆえの限界もあります。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、重力ペンキの優先度は星
つです。