昨夜のこと、ジャイアンとスネ夫がいつもの空き地でUFOから降り立った宇宙人と遭遇したと言うのです。
その話を聞いてたいそう驚いたのび太は、自分も宇宙人に会いたくて、寒空の下で一晩中UFOを待ちつづけました。
ところがジャイアンたちの話は全部のび太をだますための作り話だったのです。
真実を知って頭にきたドラえもんが、仕返しをするために取り出したひみつ道具が“組み立て円盤セット”です。
ドラえもんの組み立て円盤セットは、乗って本当に飛べる「空飛ぶ円盤」の組み立て式おもちゃです。
ドラえもんによると園児向けとのこと。ただし完成すると直径2メートルほどもある大きさになるので、組み立てには保護者の協力が必須です。
搭乗スペースにはぎりぎり3人が乗れます。
組み立て円盤セットは子供のおもちゃだけど、子供だましではない、本格派です。もちろん飛行する速度や高度はかなり制限されているでしょう。それでも紛れもない空飛ぶ円盤なのだから、大人だってときめかずにはいられません。
当てどもなく遊覧飛行するだけで楽しめる娯楽性はもとより、路面状況にいっさい左右されない乗り物としての実用性も併せもっています。
ただし空飛ぶ円盤は「宇宙人が乗っているUFO」を象徴する存在です。「一度は見てみたい」と願っている人が大勢いることでしょう。そんなものが目撃されたらSNSで拡散待ったなしです。
ひみつ道具は現代にはあってはならないものだから、世間バレはNG。となればうかつには乗れません。組み立て円盤セットがどれだけ優秀でも、自由に乗れないのでは絵に描いた餅です。
組み立て円盤セットは園児向けです。それだけに十分な安全対策が取られていると考えられます。
おもちゃとしてしかるべき安全対策の一環として、組み立て円盤セットには、人や障害物を自動的に回避する機能が備わっているはず。人にぶつけて怪我させるような真似はできないでしょう。
せいぜい繁華街を飛んで無駄に世間を騒がせる愉快犯止まりです。
どのみちこんな目立つものは悪事を働くのに向いていません。
今までに目撃されたUFOの中に宇宙人が乗っている本物があったとして、それが発覚しないのは、彼らが地球外をベースにしているからでしょう。しかし我々地球人は空飛ぶ円盤をこの地上に離着陸しなければなりません。
目撃者の中には追跡してくる人もいるだろうから、組み立て円盤セットを秘匿するのはとても難儀するでしょう。
ドラえもんの生まれた22世紀には空飛ぶ円盤なんて子供のおもちゃかもしれないけれど、プロペラでもジェットエンジンでもない推力は、我々現代人からしてみれば驚異かつ未知のテクノロジーです。
とはいえこれ1台あったところで世の中は変えられません。
組み立て円盤セットは、組み立て式であることを除けば、普通に「未来の乗り物」です。良くいえばまとも、悪くいえばひみつ道具らしい奔放さに欠けます。
よって「空飛ぶ円盤」という形体に特別な価値を見いだせるか否かが評価の分かれ目となります。
空を飛びたいけれどUFOには憧憬の念がないというなら、よりひみつ道具らしい“タケコプター”や“E・S・P訓練ボックス”のほうが満足度は高いでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、組み立て円盤セットの優先度は星
つです。