のび太は本屋に一週間通い続けて、目当ての本をようやく半分まで立ち読みしました。けれど立ち読みばかりしている客だと店主に目をつけられて、追い出されてしまったのです。
そんなのび太に「本の続きがどうしても気になって落ち着かない」と相談されたドラえもんが取り出したひみつ道具が“XYZ線カメラ”です。
ドラえもんのXYZ線カメラは、被写体の中身を写すカメラです。
なにをどれだけ透視するかを被写体に合わせてXYZ線カメラが自動的に調整することによって、適切に「中身」が撮影されます。
例えば本の表紙を撮影すると中のページが写るばかりか、連射すると1枚ごとに写るページがずれていきます。ほかにも人を撮影すると裸体が写るなど、撮影者が撮りたいであろう状態が都合よく写ります。
またXYZ線カメラは撮影した直後に本体内で現像が行われるインスタントカメラです。現像された写真は裏蓋を開けて取り出します。
原作では本一冊のすべてのページと、ほかの被写体を3枚写した時点でフィルムを使い切りました。そこでドラえもんからもらったXYZ線カメラには200枚撮りのフィルムがセットされているものとします。
XYZ線カメラの元ネタであるX線撮影(レントゲン)が医療分野で有効利用されている例を挙げるまでもなく、透視撮影の有用性には疑う余地もないでしょう。
とはいえそれは専門分野における話であって、透視撮影の個人的で身近な使い道となると意外とありません。もちろん盗撮に準ずる使い方は論外です。
フィルムの枚数が限られているのも難点です。明確なビジョンをもって用いないと、ポテンシャルの高さを活かしきる前にフィルムを使い果たしてしまいます。
XYZ線カメラの有用性は使う人の目的意識しだいです。
X線撮影はごく小さいながらも被曝(ひばく)のリスクがあります。しかしXYZ線カメラは未来の世界で民生用として流通しているのだから、そういったリスクはまったくないと推測されます。
さて、立ち読みの件でのび太に相談されたドラえもんがXYZ線カメラを取り出してどうしたかというと、こともあろうに本屋の店頭でその本の中身をすべて透視撮影したのです。
どうやら「ページを開いてないから撮影してもセーフ」という言い分のようだけど、これは紛れもなくアウトでしょう。スマホなどで本の中身を撮影する「デジタル万引き」が法的にはグレー(1)だとしてもです。
ドラえもんからXYZ線カメラを受け取ったのび太も、よその家の中を写したり、スネ夫の裸を写したりと、マナーなんてどこ吹く風のありさまです。
透視能力を手に入れた人が、ろくなことをしないのは目に見えています。
(1)【参考】「デジタル万引き」が違法ではない理由 - シェアしたくなる法律相談所
撮影するとすぐに写真が出てくる一般的なインスタントカメラとは違って、XYZ線カメラは本体の中に写真がたまります。人前で蓋を開けなければ透視写真を見られることはありません。
ただしXYZ線カメラは奇抜なデザインなので、必要以上に関心を引いてしまいまうでしょう。
透視撮影を必要とする研究分野は数多いだけに、透視撮影の開発は日々進められています。それでもハンディサイズの本体とフルカラーの透視撮影となるといまだ未知の領域です。
しかし200枚という限られたフィルムでは、「革命」と呼べるほどの目覚ましい成果を上げるにはとうてい足りないでしょう。
まじめな目的で透視するにしても、よからぬ使い方をするにしても、使用回数が制限されるのは大きなマイナスです。これを挽回するには写真撮影や透視フォーカスの自動調節というメリットでは間に合いません。
ほかにも透視できるひみつ道具があるのに、消耗品のフィルムを使うXYZ線カメラをあえて選ぶ理由はないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、XYZ線カメラの優先度は星
つです。