ジャイアンと揉めたのび太がいつものようにドラえもんに泣きついています。自分の力でジャイアンにぶつかってみることをドラえもんに勧められても、のび太はジャイアンのげんこつが怖いと言って聞く耳をもちません。
そこでドラえもんはひみつ道具の“ウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパーよろい”を取り出しました。なんでも「馬鹿には見えないよろい」なんだとか。はて、どこかで聞いたような――。
さて、冒頭に掲載しているウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパーよろいのイラストは、馬鹿には見えない特殊な画像です。もちろんあなたにはその姿が見えましたよね?
……え? 見えない? よかった、あなたは正直者です。
そんな画像があるわけないように、ウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパーよろいもまた存在しません。
アンデルセン童話の『裸の王様』をもじった、ドラえもんの冗談だったのです。
『裸の王様』読み聞かせ - Popo Kids
そもそも存在しないのだから当然なんの機能も効果もありません。ところがのび太はこの冗談を真に受けて……。
ウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパーよろい(以下「ウルトラよろい」という)を装備していると信じ込んだのび太は、結果的に勇気と自信を得ました。
「鰯(いわし)の頭も信心から」なんていいまして、信じれば鰯の頭ですらありがたく思えるわけです。それがプラスへ転べば力となります。そう考えるとウルトラよろいも捨てたもんじゃありません。
とはいえウルトラよろいが架空の存在だともう知っている我々にとっては、なんの価値もない、空虚そのものです。
勇敢さは、ときに無謀と隣り合わせです。よろいとしての意味をなさないウルトラよろいがもたらす勇敢さは命取りとなるやもしれません。
元ネタの童話『裸の王様』では、仕立屋を装った詐欺師は「馬鹿には見えない衣装」をまんまと王様に売りつけ大金をせしめて、だまされた王様は裸でパレードをして醜態をさらしました。
もしかしたらウルトラよろいでも、同様の悪事を成せるかもしれません。とはいえ実現するにはカルト教団レベルの大掛かりな洗脳が必要でしょう。そこまでしてウルトラよろいにこだわるなんて馬鹿げています。
存在しないものを秘匿するとはこれいかに。まるで禅問答です。
革命を起こそうにも、ない袖は振れません。
ポール・ハギス監督による群像劇映画『クラッシュ』に「見えない防弾マント」がキーアイテムとなるエピソードがあります。ウルトラよろいと同じく本当は存在しないけれど、いたずら心ではなくて、優しい嘘から生まれたマントです。
『クラッシュ』プレビュー - YouTube ムービー
見えない防弾マントが劇的な結末をもたらす珠玉のエピソードです。
ドラえもんがあなたの机の引き出しから現れて、ひみつ道具を一つだけくれるとなったときにウルトラよろいを選ぶ理由があるとしたら、それはドラえもんのリアクションを見るためでしょう。
まさか、よりによってウルトラよろいを選ぶとは、これっぽっちも予想していないはずです。
なんらかの理由で「ひみつ道具はもらわない」という決断をくだした場合は、単に申し出を断るよりも、ウルトラよろいを選ぶのがしゃれています。
なんにせよひみつ道具が欲しい人にはまったく無意味です。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ウルトラ・スペシャルマイティ・ストロングスーパーよろいの優先度は星
つです。