のび太が元日からつけ始めた日記は三日しか続きませんでした。ドラえもんはこの三日坊主をとがめて日記を続けるように助言したけれど、のび太はなにをしたか忘れたからもう書けないと言って聞きません。
そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“いつでも日記”です。
ドラえもんのいつでも日記は、もう忘れてしまった過去の出来事も、まだ起こっていない未来の出来事も、いつのことでも自動筆記できる日記帳です。
筆記具を手にしてこの日記帳に向かうと、手がひとりでに動き出して日記を書きあげます。そこには出来事が起こった時刻まで詳細に書き込まれています。
日記をつける日にちの決まり方は不明。当サイト『もしも道具』では、まず自分で日付を記入することで自動筆記が始まると仮定します。
システムとデータの区別が明確なコンピューターとは違って、我々の脳は「システムが記憶であり、記憶がシステムである」というメカニズムだと脳科学の研究で捉えられています(1)。
それが真実だとしたら、自然の摂理として記憶は変容します。たしかに記憶は移ろいやすくて、あやふやなものです。
そこでいつでも日記です。記憶が当てにならないときは、時空の引き出しから情報を取り出すいつでも日記を使えば、正確で間違いのない記録を参照できます。
ICレコーダーほどではないにしろ、日記にもある程度の証拠能力が認められるようです。いつでも日記がトラブルを解決する糸口になるかもしれません。
問題は未来の日記です。『ドラえもん』の世界では、未来を変えようとすると元の歴史に戻そうとする力が掛かります。いわゆる「歴史の修正力」です。
ドラえもんの介入によってのび太の結婚相手はジャイ子からしずかちゃんに変わったけれど、のび太は特例と考えるのが自然です。だって未来からの訪問者はのび太の元にしか現れなかったのだから。
なんらかの意思によって、歴史を変えることが許された唯一の人間。それがのび太なのでしょう。
未来を変えることが許されない我々にとっては、いつでも日記で未来を知ってもただ辛いだけです。
(1)【参考】脳とは「記憶そのもの」だった――「記憶のメカニズム」の詳細が明らかに|WIRED.jp
いつでも日記で遠い過去の日記を無暗につけると、心のバランスを保つために封印した辛い記憶、いわゆる「抑圧された記憶」を図らずも呼び覚ましてしまうかもしれません。
そしてなにより未来の日記をつけるのは無謀です。常人はただ運命に翻弄されて余計な苦しみを味わうだけでしょう。
歴史の修正力にあらがって未来を変えられる器が自分にあると、自分は選ばれし人間だと、どうなっても後悔しないと、そう確信できるのなら、どうぞ未来の日記をつけてください。
映画『ファイナル・デッドブリッジ』予告編
人にいつでも日記を書かせれば、その人の過去や未来を暴けます。しかし本人に直接書いてもらうのだから「こっそりと」とはいきません。相手にバレるの前提で強行するしかないので悪用には不向きです。
いつでも日記の表紙にはでかでかと「日記」と書いてあります。まともな人は他人の日記を盗み見るようなゲスな真似はしない? いやいやスマホの盗み見はよく聞く話だから、日記とて例外ではないでしょう。
いつでも日記にはシャーペンを使うようにして、予言にあたる未来の日記は読んだあとに念のため消しておくべきです。
残る問題は勝手に書き込もうとされた場合です。それはもう他人の日記に手出しするようなアホな人間を部屋に入れたことを後悔するしかありません。
言わばいつでも日記は「この宇宙のすべてが記録されている“アカシックレコード”にアクセスできる端末」です。
使用者にまつわる事象に限定されるとはいえ、神の領域から情報を引き出すのだから、人知を超えた恐ろしいひみつ道具です。
「言った、言わない」で不毛な水掛け論に陥るのはよくあること。そんなときいつでも日記を使えば白黒はっきりさせられます。
また自分の人生をいつでも日記で正確に振り返るのは、自己啓発の足掛かりにもなるでしょう。
ただし自分のことに限定されないばかりか、映像で過去や未来を見られる“タイムテレビ”という至高のひみつ道具を差し置いて選ぶだけの優位性は見いだせません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、いつでも日記の優先度は星
つです。