のび太がなにやらママに打ち明けようとして、そのタイミングで迷っています。
てんとう虫コミックス『ドラえもん』第9巻「ごきげんメーター」より
- のび太
- 「テストのせいせきが、きょうはひどく悪かったんだ」
- ドラえもん
- 「きょうはじゃなくて、きょうもだろ」
真顔で毒を吐くドラえもんをよそに、のび太は廊下から部屋をのぞき込んでママの顔色をうかがいます。そういうことなら、とドラえもんが取り出したひみつ道具が“ごきげんメーター”です。
ドラえもんのごきげんメーターは、機嫌を量る虫メガネです。これで人や動物を見ると、相手の今の気分が晴れや曇りなどの空模様となって映し出されます。
気分と空模様がどう対応しているか、原作で確認できるのは次の4パターンです。
2017年の日本を象徴する言葉といえば「忖度(そんたく)」でしょう。忖度とは、人(特に目上の人)の心を推し量ること。平たくいえば「空気を読む」です。
こんな言葉が時世を席巻(せっけん)するなんて、空気を読むことが良くも悪くも重んじられる日本の風土らしい話です。この「悪くも」が厄介で、たとえば同調圧力として人を息苦しくさせることもあります。
ではごきげんメーターはどうか。日本の高度に発達した忖度文化においては、喜怒哀楽を大まかに確認できるだけでは不十分でしょう。忖度は喜怒哀楽の一歩先を考えなくてはなりません。
逆にいえば、踏み込み過ぎない適度な塩梅ともとれます。「忖度なんてクソ喰らえ!」てな人でも、相手の感情に寄り添うことまでは否定しないでしょう。
「人の感情は尊重したいけど、空気を読むのは苦手だ」という人にとって、ごきげんメーターは優秀なサポートアイテムになります。
惜しむらくは虫メガネで人を見るという発動条件がいささか失礼なこと。相手の気持ちを知りたいときに、こんなマナーに反することをしたら台無しです。
相手の喜怒哀楽を的確に把握するのは、対人関係におけるトラブルを避ける手立てになります。危険どころか安全性を高められるでしょう。
人の感情を機械で勝手に読み取るのはモラルに反しています。
しかしごきげんメーターは大まかな喜怒哀楽の判別だけにとどまっているため、取り立てて悪質というほどではありません。
いきなり虫メガネ(のようなもの)で見られるのは、程度の差はあれ誰だって気に障る行為です。ごきげんメーターを使えばかなり人目につきます。
けれど虫メガネに空模様が表示されたところで「だから?」といった感じで、まさかそれが本物のひみつ道具だとはまず思われないでしょう。
思考を読み取れるならともかく、感情を大まかに判別するだけでは革新的とはいえません。相手の感情をくみ取るのはコミュニケーションの基本として、大半の人が日常的に行っていることです。
人間の感情を読み取る機械もすでに実現しており、その精度はこれから飛躍的に向上していくでしょう。「空気が読めるAI」の登場は、ドラえもんの生まれる2112年よりずっと早くに、それこそ目前に迫る勢いです。
相手の感情を的確にくみ取る能力は、優れた処世術として機能します。そんな狙いと、ごきげんメーターの「虫メガネで人を見る」という不審でしかない発動条件は相反します。そのせいで相手が気分を害したら元も子もありません。
せめて伊達メガネ型だったら……。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ごきげんメーターの優先度は星
つです。