ジャイアンとスネ夫を馬鹿にした落書きをのび太がしていると、運悪く二人に見つかってしまいました。それで一目散に家へ逃げ帰ったのに、ママにお使いを頼まれて、また外出しなければなりません。
家の外で待ち構えている件の二人をなんとか切り抜けたいのび太のために、ドラえもんが出してあげたひみつ道具が“わすれろ草(ぐさ)”です。
ドラえもんのわすれろ草は、ど忘れを誘発する花です。
この花の匂いを嗅ぐと、そのときに考えていたことをど忘れしてしまいます。さらに頭がすこしのあいだ朦朧(もうろう)として、嘘を吹き込まれやすくなります。
通常のど忘れと同様に、しばらくしたり、なにかきっかけがあったりすると思い出せます。
わすれろ草が生花なのか造花なのかは不明。当サイトでは、わすれろ草は枯れることがなく、いつまでも匂いを放ち続けると仮定します。
指定した記憶を頭から消し去れるのなら、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の解決方法として有用かもしれません。
しかしそのときに考えていたことを一時的に忘れるだけではどうにもならないでしょう。
そこで原作の登場人物たちは、わすれろ草を他者に嗅がせて、自分にとって都合のいい記憶を吹き込む姑息(こそく)な使いかたをしました。たしかに有効だったものの、これは擁護しようのない悪用です。
わすれろ草はまともな使い道を見いだせないひみつ道具です。
わすれろ草は顔の前に差し出されるだけですぐに効果が出るくらい匂いを漂わせています。
うっかり自分で嗅いでわすれろ草の特異性をど忘れすれしたが最後、そのまま嗅ぎ続けて連鎖的に記憶をなくし、意識障害を起こします。
意識と記憶が元に戻るまでのしばらくは、無防備でとても危険な状態です。わすれろ草の管理には十分な注意が必要です。
人の記憶の改ざんは、さまざまな悪事につながります。わすれろ草の効果時間は短くとも、犯行に及ぶには十分でしょう。
そもそも人の記憶を操った時点ですでにモラルに反していることを踏まえれば、「わすれろ草は悪事を成すためにある」といっても過言ではありません。なかなか悪質なひみつ道具です。
わすれろ草が効けば、目の前に差し出されたわすれろ草のこともど忘れます。長期記憶として定着する前にど忘れしたことはそのまま忘失してもおかしくありません。
知り合いに繰り返し使うような馬鹿なまねをしなければ、秘匿性はある程度保てるでしょう。
小悪党におあつらえ向けのわすれろ草は、なにか大それたことを成すには力不足です。
仕事に学業にと「覚える」ことに追われるけれど、ときとして「忘れる」ことが重要になる場面もあります。“アンキパン”と対になるようなひみつ道具はあってしかるべきでしょう。
それがわすれろ草――とはならないのが惜しいところ。「ど忘れ」という中途半端な状態では無駄にイライラするだけです。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、わすれろ草の優先度は星
つです。