ぐうたらなのび太はついにオシッコをしにトイレに行くことすら面倒くさくなりました。そこで歩かなくても移動できる機械をドラえもんにせがんでみたところ、貸してくれたひみつ道具が“いただき小ばん”です。
ドラえもんのいただき小ばんは、コバンザメ(別名コバンイタダキ)みたいになれる小判です。
この小判を背中に着けて、誰かと背中合わせに近づくと、体が着衣ごと10cmくらいまでみるみる小さくなって、その人のお尻の辺りにピタっとくっつきます。
いつでも自由に離れられて、離れた途端に元の大きさに戻ります。
強者にくっついておこぼれにあずかる、というコバンザメの生存戦略は確かに有用です。でもこの戦略を人がとる場合、くっつくべきは体じゃなくて、権力や立場です。
のび太はジャイアンのそばにいてもひどい目に遭うばかり。その一方でスネ夫はジャイアンの威を借りてふんぞり返っています。スネ夫はまさしくジャイアンのコバンザメです。
物理的にくっつくいただき小ばんが真価を発揮するのは、自然界のような喰うか喰われるかの状況です。人間界がそんな状況に陥らないとは限らないけれど、とりあえず平時にはあまり用のないひみつ道具です。
いただき小ばんでくっつく先が、だいたい宿主のお尻の辺りなのが厄介です。宿主が座ると、挟まれて身動きが取れなくなってしまします。
のび太がジャイアンにくっついたときなんて、ベンチに座られたところに、オナラをされたり歌われたりと散々な目に遭いました。
最悪の場合、圧死や窒息死すら考えられます。宿主が座りそうになったら、脱兎(だっと)のごとく離れましょう。
人に紛れて移動する効力の悪用方法といえば不法侵入でしょう。例えば帰宅中の人にくっつけば、宿主の自宅にそのまま侵入できます。
ただし10cm程度の小人(こびと)になっているとはいえ、むき出しでお尻にくっついているからには、発見されるリスクが伴います。
入館するときに身体検査を受けるような本当にセキュリティの厳しい施設に侵入するのは難しいでしょう。
“どこでもドア”や“通り抜けフープ”で侵入するほど簡単にはいきません。
のび太がいただき小ばんで人々のお尻を渡り歩いた中で、唯一しずかちゃんだけがくっついた瞬間に「なんだかむずむずしたみたいだけど、気のせいかしら」(1)と違和感を覚えました。
宿主が感覚の優れた人だったら、くっついた瞬間に気がつかれるかもしれません。
それにお尻に人形(まさか生きた小人だとは思わないでしょう)をくっつけている姿はなかなか奇妙です。宿主の知り合いが見たら、「その人形なに?」とまず間違いなく聞くはずです。
もちろん、くっつく瞬間を目撃されるのは論外です。
対人用のひみつ道具には、必ず人目がつきまといます。いただき小ばんを人知れず使うなんてのは無理難題というものでしょう。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第13巻「いただき小ばん」より。
小人になって誰かのお尻にくっつくだけでは社会は変えられません。
少しの距離を歩くことすらだるく感じたときの解決策として、いただき小ばんが冴えたアイデアとは思えません。
能力バトル漫画の世界ならともかく、我々の暮らすこの世界では、いただき小ばんが光る場面はそうないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、いただき小ばんの優先度は星
つです。