漫画『ドラえもん』の傑作エピソード「世界沈没」は、大洪水で世界が終る未来をのび太が見たことが物語の発端となります。大長編になりそうな壮大な幕開けながら、物語は甚だ(はなはだ)陳腐な結末を迎えます。
どんな結末だったかはさておき、そのときにのび太が未来を見るのに使ったひみつ道具が“イマニ目玉”です。
ドラえもんのイマニ目玉は、自分の未来が見えるひみつ道具です。
形状は目玉(眼球)を模した半球体で、平面部にダイヤルが搭載されています。何時間後の未来を見るかダイヤルに設定して、両目の上にかぶせるように装着すると、未来の出来事が視覚に映し出されます。
イマニ目玉が映すのは使用者の主観映像です。つまり未来の自分の視覚を時を超えて先取りしている状態になります。
その仕組み上、未来の自分が目を閉じているあいだはなにも見えません。夢を見ていた場合は例外で、その夢が見られます。
イマニ目玉が登場するエピソード「世界沈没」から読み取れる情報をもとに本稿では、イマニ目玉には10分単位で最大24時間先まで設定できると仮定します。
未来は変えられるのか?
イマニ目玉の有用性はこの疑問に対する答えしだいです。今のところ人類には解き明かせていない宇宙の謎ですが、『ドラえもん』の世界では「変えられる」と答えが出ています。
ドラえもんの介入によって、のび太の結婚相手がジャイ子からしずかちゃんへと変わりました。イマニ目玉で見た未来もまた、自分の力で変えられるのです。
事故や事件、さらには天災などの災難に見舞われていないか、イマニ目玉で24時間先を毎朝確認しておけば、思わぬ災難から免れることができるかもしれません。
できれば自分だけではなく、家族など大切な人も守りたいのが人情というもの。しかしイマニ目玉で見ることができるのは、未来に自分が直接目にする映像だけです。確認できる未来の情報は限られますから、自分の身を守るのが精一杯でしょう。
イマニ目玉のいわば副産物である「目を覚ましたまま夢を見られる」ことを、大きな魅力と捉える趣味嗜好の人も多いはず。夢はへたな映画をしのぐインパクトがあります。おぼろげな記憶ではなく、はっきりと見る夢はまた格別でしょう。
自分の未来を事前に知ってしまうと、余計な心配を抱え込む破目になるかもしれません。また逆に、未来を確認しないと不安でいても立ってもいられなくなる、一種の依存症に陥る可能性も考えられます。
基本的には気の持ちようであって、イマニ目玉による直接的な損害を被る危険性はありません。
未来を変えたときになにが起こるかは人知では計り知れず、その危険性は予測不能です。
毎日定時にニュースをくまなくチェックする習慣を身につければ、(近々の未来だけとはいえ)予言者として台頭できます。信奉者から金品を巻き上げるのは雑作もないことでしょう。
ロト7や競馬などの当選番号や、株価の推移を事前に確認して稼ぐのも厳密には悪用です。
イマニ目玉を使っている姿はちょっと異様ですが、わざわざ人前で使う必要もないので秘匿性に問題は生じません。
未来を定期的に確認することによって、イマニ目玉の存在が知られてしまう未来を回避できる可能性も残されています。
僅か24時間先までとはいえ、未来を垣間見ることができるのは、現代の常識を覆す革命的な現象です。物理的に時空を超える“タイムマシン”には及ばずとも、それでも人類が次の段階へ進むきっかけにすらなり得ます。
時間を操るひみつ道具は世界への影響力が強く、タイムパラドックスなどの物騒な懸案が山積みです。
イマニ目玉の「できるのは自分の未来を見ることだけ」という融通のきかなさは、むしろ安全性を高め、また使用者にのしかかる責任を軽減する方向へ作用する好ましい制限に思えます。
上位互換にあたるひみつ道具の“タイムテレビ”と比べても、機能が限定的だからこその利点(そして夢を見られるという副産物)があります。ということで、イマニ目玉の優先度は星 つです。