のび太がお正月に部屋でゴロゴロしていると、知らないおじさんが突然やってきて、説教されてしまいました。
聞くとそのおじさんはパパの勤める会社の社長とのこと。早く帰ってほしいけど、パパの立場上、強くは言えません。
そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“ゴーホーム・オルゴール”です。
ドラえもんのゴーホーム・オルゴールは、人を家に帰らせるオルゴールです。
このカエル形でゼンマイ式のオルゴールが鳴らす「蛍の光」を聴くと、家に帰らずにはいられなくなります。ボリュームを上げれば上げるほど、その思いは強まります。
効力の対象となる「家」とは現在住んでいる自宅です。ただし強く作用した場合は、自宅ではなく実家へ帰りたくなります。
演奏を止めれば対象者は平常心に戻ります。
「そろそろお開きにしましょう」と気兼ねなく言えて、素直に気持ちよく帰ってくれる来客ばかりだったら苦労しません。
仕事関係やら義父母やら、馬が合わない人を家に招かざるを得ないこともあります。そんなときに自分のタイミングで好きに切り上げられたら、どれだけ気が楽か。
そこでゴーホーム・オルゴールです。これがあれば面と向かって帰宅を促すことなく、必ず厄介払いできます。
ただし難点が一つ。ゴーホーム・オルゴールの演奏曲「蛍の光」です。店舗の閉店時間が近いことをそれとなく知らせるために放送される曲(1)だから、「帰ってくれ」と言わんばかり。これでは角が立ちます。
直接お開きを提言するよりも嫌みったらしくて、かえって悪印象なくらいでしょう。
だから「相手にどう思われてもいいから、とにかく帰ってほしい」という場面でしか使えません。逆にいえば、そういった場面でなら無双のひみつ道具です。
(1)USENの店舗向け閉店チャンネルが採用している曲は、正確には「蛍の光」の原曲「オールド・ラング・サイン」を三拍子にアレンジした「別れのワルツ」です。
ゴーホーム・オルゴールが強く効きすぎると、自宅を通り越して、実家へ帰りたくなります。つまりその家が実家でなければ、住人にも効果が波及します。
そうなったら、すぐに演奏を止めましょう。さもないと客ばかりか住人までもが帰省する羽目になりかねません。
ゴーホーム・オルゴールは自分の客に限らず、同居している家族の客でも勝手に追い払えます。これはかなり悪質です。
DV加害者が配偶者の人間関係を希薄にさせることで支配を強める目的に使う悪用が考えられます。
オルゴールの「蛍の光」が聴こえてきて、なんだか無性に帰りたくなった。という表面上の出来事だけから、そこに未知の力が働いていたことを確信する人はまずいないでしょう。
けれど帰りたくなったきっかけがオルゴールの音だったと自覚されている時点で、もう秘匿性に難ありです。
もしも国境や国際空港にゴーホーム・オルゴールを大規模展開したならば、出入国しようとした人たちを片っ端から思いとどまらせて、鎖国を強制できます。
とはいえ、たった一つのゴーホーム・オルゴールでは、そんな大それたことは成せません。
姑(しゅうとめ)が必要以上に訪問してきてうんざり。なんてのはよく聞く話です。下手に我慢してもストレスがたまるばかりでろくなことになりません。
こんなものを使わずに済むならそれに越したことはないけれど、世知辛い世の中、ゴーホーム・オルゴールが求められる場面は多いでしょう。
ただし、夢の広がるひみつ道具が数ある中で、わざわざこれを選ぶかかというと、それはまた別の話です。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ゴーホーム・オルゴールの優先度は星
つです。