エイプリルフールにのび太は張り切って人をだまそうとしましたが、どうにもうまくいきません。あげくの果てには「きみに、ひとをだませるわけがないよ。うそをつくには、あるていど頭がよくなくちゃ」(1)とドラえもんに言われる始末です。
さすがに言い過ぎたと反省したドラえもんが、のび太のために取り出したひみつ道具が“うそつ機”です。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第3巻「うそつ機」より。
うそつ機を口に装着して嘘をつくと、相手は必ず本気にします。たとえ嘘だと事前に知っていても、絶対にありえない嘘でも、例外はありません。
うそつ機を装着したのび太に「あなたはのび太だ」と嘘をつかれた玉子(のび太の母)は、疑うこともなく自分がのび太だと信じ込んでしまいました。そのくらい効果は強力です。
うそつ機を使えば、人が携わることなら現実に起こり得る範囲でなんでも実現できるでしょう。しかし、人をだますのだから要は詐欺です。とてもじゃないけど有用とはいえません。
とはいうものの、「嘘も方便」や「嘘から出たまこと」なんて言葉もあります。大事な場面で緊張している人を嘘でリラックスさせるなど、人を傷つけず、役立つ機会も(ときには)あるでしょう。それもまた独善的かもしれないけれど。
うそつ機が登場する原作エピソードでは、調子に乗ったのび太が「火星人がせめてきたぞう」と街中で叫んでプチパニックが起こりました。
これは、H・G・ウェルズの小説『宇宙戦争』をベースにしたモキュメンタリー(偽ドキュメンタリー)をオーソン・ウェルズがラジオで放送したときに、本当に火星人が侵略してきたと信じた聴衆がパニックになった実際の逸話のパロディです。
この逸話については、本当はパニックという程の騒ぎではなかったともいわれています(2)。では、うそつ機を使って群衆の中を吹聴して回ったならば、どうなるでしょうか。おそらくは正真正銘のパニックが起こるはずです。
パニックの規模次第では死傷者が出る危険性も考えられます。いたずらでは済まされないので、うそつ機で無暗に嘘を広めるべきではありません。
(2)参考: 「宇宙戦争」、パニックはなかった? - ナショナルジオグラフィック
他人の家へ家族として上がり込み、適当な理由で家じゅうの金品をすべて受け取って、何食わぬ顔で立ち去る……。うそつ機があればどんな嘘でも信じ込ませることができるのだから、あらゆる詐欺が可能になります。
多くの人が密集するイベントなどで意図的にパニックを起こしたり、人を言葉巧みに誘導して自殺に追い詰めたり、詐欺の域を超えた犯罪すらたやすいでしょう。
うそつ機の効果は一時的なものです。詳細な条件は不明ですが、なにかの拍子に効果は勝手に解けるようです。
うそつ機でだました人が我に返ってから、「変なくちばしをつけた人に言われたことを信じたのが事の始まりだった」と思い返すでしょう。対面で使わねばならない以上は、秘匿性を期待できません。
独裁者の多くは、嘘のプロパガンダで民衆を扇動しました。使用者の資質しだいでは、うそつ機で文字どおり革命を起こせるかもしれません。
自分が詐欺師に成り下がることを受け入れられるなら、これほど便利なものはありません。けれどもやっぱり真っ当に生きていきたい。というわけで、善用も一応できるという点を考慮しても、うそつ機の優先度は星
つです。