「鏡や鏡、この世で一番美しいのは誰?」
「女王さま、あなたは美しい。けれども、白雪姫はその千倍も美しい」
童話『白雪姫』に登場する“魔法の鏡”は真実を語ります。しかし残酷な真実に打ちひしがれた女王は嫉妬に狂い、やがては破滅しました。
真実がいつも人を正しく導くとは限りません。ときには嘘が人を救うこともあります。でも、嘘しか言わないひみつ道具の“うそつきかがみ”だと……。
ドラえもんのうそつきかがみは、自我を持ち、人と話しができる鏡です。
その名のとおり嘘つきで、話す内容も、鏡に映す像もすべてが偽りです。悪魔的な人心掌握術を持っており、鏡を見た者をお世辞と虚像で操って、自分のとりこにします。
弱点は動けないこと。自分で身を守れないことに乗じて、ドラえもんは「こわしてやる」とうそつきかがみを脅して改心させました。
たとえそれがお世辞だとしても、褒められるのはうれしいものです。気分が乗らないときや、自信を失ってるとき、うそつきかがみを見れば元気を取り戻せるでしょう。
ただし、うそつきかがみは性悪で、隙あらば人をだまして陥れようとしてきます。客観性と信念を持たずにうそつきかがみと対峙すれば、取り込まれてしまうことを忘れてはいけません。
うそつきかがみと対峙した登場人物で、自分を保っていられたのはドラえもんただ一人でした。気分転換に使うには、危険すぎるひみつ道具です。
うそつきかがみが嘘で塗り固めたまやかしの世界へ取り込まれると、自力で抜け出すのは困難です。最悪の場合、そのまま現実から逃避し続けて、人生を棒に振ってしまうかもしれません。
うそつきかがみを人にあてがえば、甘い戯れ言でその人を堕落させられます。ドラえもんのようにへっちゃらな人は少ないでしょう。
いきなり鏡に話しかけられたら、スピーカーが仕込まれていて、誰かがマイク越しに話しているイタズラだと思うでしょう。
まさかそれが本当に自我を持つ鏡だと、額面どおりに受け取る人はまずいません。
しかも一度魅入られたが最後、うそつきかがみの従順なしもべになって、その存在を受け入れてしまいます。
うそつきかがみは、インパクトの強さの割には秘匿性が守られています。
もしも、うそつきかがみが真に邪悪な存在だったなら……。しもべを増やしながらいずれは権力者を取り込み、人類を破滅に導いていく。そんなシナリオはあり得ない、と言い切れるでしょうか。
『白雪姫』は、魔法の鏡が裏で糸を引いていたという見方もできます。うそつきかがみもまた、そういった存在かもしれません。
とはいったものの、やっぱりうそつきかがみは小悪党で、そこまでの器ではないでしょう。
うそつきかがみのように自我のあるひみつ道具は、どう考えたって使い勝手が悪くて、下手すると道具に使われるなんてことになりかねません。
リスクを背負うほどのメリットがうそつきかがみには見いだせない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、うそつきかがみの優先度は星
つです。