明日の天気にゲンコツ30発を賭けることになって、のび太は晴れに、スネ夫は雨に賭けました。天気を変えられる“お天気ボックス”をドラえもんに用意してもらっていたのび太は自信満々です。
ところがお天気ボックスで晴れさせるのに必要なカードがなくなってしまいました。あいにく明日の天気予報は雨です。このままではのび太がスネ夫にボコられてしまいます。
そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“雲とりバケツ”です。
ドラえもんの雲とりバケツは、雲を取るポリバケツです。
蓋を開けると、近辺の空に浮かんでいる雲をどんどん集めて吸い込みます。ひっくり返す(横に倒す)と、今度は集めた雲をどんどん吹き出します。蓋を閉じると、雲の出し入れが止まります。
容量は不明。“四次元ポケット”とは違って、上限があると仮定します。
あいにくの雨に降られても、雲とりバケツで雨雲を吸い込めば晴れ上がります。この「雨天を晴天にする」が一番の用途でしょう。雨が降ると困る用事は多いから、ここぞというときに必ず役に立ちます。
もちろん逆もまたしかり。なにかの事情で晴れてほしくないときは、集めておいた雨雲を放てば雨を降らせられます。
ただし収集と放出のサイクルに縛られます。お天気ボックスや“天気決定表”のように、いつでも好きなように天気を変えるとはいきません。
この縛りは雲とりバケツの短所である反面、いつも同じ地域で運用すればトータルの降水量は変わらないという長所でもあります。
降水量や日照時間を個人の都合で変えるのは本来許されないことだから、素直に長所として甘んじて受け入れるべきでしょう。
雲とりバケツで集めた雨雲を屋内で放つと、なんとその屋内に雨雲が垂れ込めて雨がざあざあ降り出します。
雨雲の入った雲とりバケツを家の中でうっかり倒してしまったら一大事。なにからなにまで水浸しです。
雲とりバケツを保管するときは、蓋をちゃんと閉めて、倒れないように固定しておきましょう。
社会に悪影響が出るほど延々と晴れ(もしくは雨)の日を継続させるようなことは、雲とりバケツの仕組み上できません。
建物の中に雨を降らせる愉快犯がせいぜいです。
地表のある一点に雲が吸い込まれる様子は、どう見たって天変地異です。規模が大きい現象だけに遠方からでも視認されてしまいます。目撃者はこぞって動画を撮影してSNSに投稿するでしょう。
雲が吸い込まれていくその場所を一目見ようとする野次馬に現場を押さえられるのも時間の問題です。
雲とりバケツの限られた容量では、災害をもたらしたり、逆に災害を解消したりするなどの大それた気象制御はできません。
自分の都合に合わせて晴れさせたり雨を降らしたりできるのはもちろん魅力的です。けれど都合は人それぞれ。ほかの人にとっては迷惑極まりない変更かもしれません。
だから雲とりバケツの低い秘匿性は致命的な欠点となります。人知れず天気を変えられる天気決定表を差し置いて、あえてこれを選ぶ理由はないでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、雲とりバケツの優先度は星
つです。