祝日のない6月は日曜以外に学校を休めない(1)、こんなつまんない月があるか! と、のび太がぼやいています。
そこでドラえもんがのび太のために取り出したひみつ道具が“日本標準カレンダー”です。
(1)連載当時は学校週5日制(週休2日制)がまだ実施されていませんでした。
ドラえもんの日本標準カレンダーは、日本における「国民の祝日」を制定するカレンダーです。
付属している日の丸シールを日付の上に貼って、祝日の名前と意味を書き加えると、その日がそのとおりの祝日になります。日の丸シールを剥がすと元の日に戻ります。
のび太は日本標準カレンダーで6月2日を誰も働いてはいけない「ぐうたらの日」と決めました。
「勤労感謝の日」に「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」という規定に従う人がはたしてどれだけいるでしょうか。しかし「ぐうたらの日」にあっては、皆が皆、働かずにぐうたらと過ごしたのです。
日本標準カレンダーで制定した祝日の意義は「守るべき法律」として認識されるようです。これはつまり、日本標準カレンダーをもってすれば、国民を目的どおりに統制できる事を意味します。
他者を慈しむ「慈愛の日」なんてどうでしょう。その日ばかりはSNSから罵詈雑言が消え、職場のハラスメントも学校のイジメもない、ミソジニーとミサンドリーが手を取り合う、束の間の平和が訪れるかもしれません。
でも、徹底した統制で上辺だけの平和を実現する社会はいわゆる「ディストピア」です。真の平和な社会とはいえません。
休日になることだけを目的とした特に内容のない祝日でも、社会に与える影響は甚大です。
とにかくどんな国民の祝日にしろ、個人が勝手に制定するなんてことは許されません。
差し迫った日を日本標準カレンダーで休日にすれば、混乱は免れません。最低でも数か月は余裕をもって制定しましょう。
映画『パージ』シリーズは、すべての犯罪が夜のあいだ合法化される日「パージ」が制定された架空のアメリカ社会が舞台です。
映画『パージ』『パージ:アナーキー』予告編
日本標準カレンダーをもってすれば、この「パージ」を実現できます。
あなたが人を殺さないのは、なにも違法だからではないでしょう。しかし世の中には、「罰せられないなら非道の限りを尽くす」という人が必ずいます。
その日、日本になにが起こるのか、語るまでもありません。
国民の祝日はすべての国民が知るところとなります。祝日そのものの秘匿性は皆無です。しかしそれが日本標準カレンダーによって実現されたものだとは、この現代において誰も知る由もありません。
強い統制力をもった国民の祝日を自由に制定できるのだから、社会に変革をもたらすことも可能でしょう。
前述した「慈愛の日」にしても「パージ」にしても、なにかしらの変革が起こるはずです。
しかし「はたして悪人が、悪人の損する祝日に従うのか?」という疑問が残ります。日本標準カレンダーの統制力が遵法精神にのっとったものだとしたら、「法律なんてクソくらえ!」な悪人は統制できません。
日本標準カレンダーで成せる変革は、正直者が馬鹿を見る変革だけかもしれません。
学校が休みになってもやるべき勉強は減らないし、会社が休みになってもやるべき仕事は減りません。ぐうたらしたいというだけで休日を増やしたのび太は問題を先送りしているだけです。
きちんとした意義のある祝日にしたって、個人が勝手に制定していいわけがありません。
劇的な社会的混乱を夢見る人には、「犯罪が許される祝日」を実現できる日本標準カレンダーが魅力的に映るかもしれません。それにしたって日本国内限定だから、願望別選別「世界を壊したい」に選定したひみつ道具に比べたら力不足です。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、日本標準カレンダーの優先度は星
つです。