世のため人のためになる立派な人物になろうと、のび太は一念発起しました。偉人の伝記を読んでその気になったのです。
ところがやることなすこと裏目に出て、ろくなことになりません。のび太は悲しみの余りに「ならば悪い奴になってやる」と暗黒面に堕落しました。
そこでドラえもんが取り出したひみつ道具が“よい子バンド”です。
ドラえもんのよい子バンドは、悪いことが絶対にできなくなるヘアバンドです。これを頭に巻いた人が悪行を働くと、結果的に善行になります。
よい子バンドをしたのび太がジャイアンを蹴っ飛ばすと、頭上に落下してきた鉄骨からジャイアンの身をよけさせる結果になりました。しずかちゃんのスカートをめくると、スカートの中に入り込んでいた蜂を追い払う結果になりました。
よい子バンドを着ければ、なにをしたってグッドエンドになる! 身勝手で独善的なふるまいをしても、不注意で法に触れても、魔が差して悪さをしても、「なんていい人だろう」と周りから思われる結果になります。
あれ? それってなんだかおかしくない?
のび太は実際にジャイアンを蹴っ飛ばしたし、しずかちゃんのスカートをめくりました。よい子バンドは悪行を止めはしません。その結果を操るだけです。
「被害者が納得しているからなにも問題ない」というのもなんだか釈然としない話です。
のび太がジャイアンを蹴っ飛ばした結果、ジャイアンにぶつかるはずだった鉄骨は、のび太の方にぶつかりました。
よい子バンドを着けたなら、その気がなくても身をていして誰かを助けることになるかもしれません。ことによっては命を賭する羽目になるでしょう。
「蹴っ飛ばしても、スカートをめくっても感謝されるなら、やりたい放題じゃね?」という考えはあながち間違いともいえません。
ただしのび太がジャイアンを蹴っ飛ばしたときは鉄骨にぶつかったし、しずかちゃんのスカートをめくったときは蜂に刺されました。どうやらよい子バンドには、悪行に相応の報いが生じる隠し効果があるようです。
「自分の悪行を都合よく正当化する“悪い子バンド”」として使えば身を滅ぼすことになるでしょう。代償もなく悪行が許される“悪魔のパスポート”のようにはいきません。
よい子バンドを着けたのび太の身に起こった顛末は、本当によい子バンドが関係していたのでしょうか。偶然といえば偶然です。
よい子バンドの効力は実証しようのないオカルトだから、それが本物のひみつ道具だとバレることはないでしょう。
ただし「鉢金の付いた額当て」という見た目のよい子バンドは日常生活になじみません。どう見ても『NARUTO -ナルト-』のコスプレです。
無駄に目立って、奇異の目で見られることでしょう。
市井の人ひとりによい子バンドを着けたくらいで世の中は変わりません。でも総理大臣に着けさせたら? どんな不正を働かれても、そのすべてが国益につながるはずです。素晴らしい!
でも、どうやってよい子バンドを総理大臣に常用してもらうというのか。不正に対する報いが生じることを知ってなおよい子バンドを常用する政治家なんて、ただの一人もいないでしょう。
正直者が馬鹿を見るこの世の中、暗黒面に堕落したのび太を真正面から喝破するのは難しく思えます。
この件でいわゆる「顧客が本当に必要だったもの」は、「悪行が結果的に善行になる効力」ではなくて、「正直者が報われる効力」でしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、よい子バンドの優先度は星
つです。