連載初期の『ドラえもん』で、のび太とドラえもんが二人で餅を食べているとき、最後の一つを取り合ってケンカになりました。「ドラえもんの好物はどら焼き」という設定が固まるまでは、餅が好物だったようです。
そんなドラえもんが、のび太とケンカしなくて済むくらい大量の餅を用意しようと取り出したひみつ道具が“もちせいぞうマシン”です。
もちせいぞうマシンは、その名のとおり餅を作るひみつ道具です。
漏斗状になっている上部へもち米のイネを投入してレバーを引くと、後の工程はすべて全自動で行われます。ドラえもんによると、「だっこくして、精米して、むしあげて、ついて、おもちになってでてくるんだ」(1)とのこと。
もちせいぞうマシンが登場する原作エピソード「タタミのたんぼ」でドラえもんは、最初は野比家にあるもち米を材料に使おうとしていました。このことから、もちせいぞうマシンへ投入するのは精米済みのもち米でも大丈夫なことがうかがい知れます。
調理はとても迅速で、イネからでも数分で餅が完成するようです。
(1)てんとう虫コミックス『ドラえもん』第2巻「タタミのたんぼ」より
つきたての餅の美味しさは格別です。冷めて固くなった餅を切り分けた切り餅とは違う味わいがあります。けれども臼と杵(きね)で餅をつくのはなかなかの大仕事なので、つきたての餅を食べられる機会は限られています。
そんなつきたての餅をいつでも手軽に作れるのだから、もちせいぞうマシンは餅好きにとってはたまらない逸品でしょう。
さて、「タタミのたんぼ」は1974年に描かれました。それから月日が経ち、現代はどうなったかというと、実際に全自動餅つき機が市販されています。時代がもちせいぞうマシンに追いついたのです。
そればかりか、市販の全自動餅つき機のほうが大きさがコンパクトです。もちせいぞうマシンが機能的に上回っているのは、イネから作れる点です。しかし、市場に流通しているもち米は精米なので、一般家庭ではほとんど意味がありません。
(ちなみにドラえもんたちは、“しゅみの日曜農業セット”でもち米のイネを栽培して収穫しました)
もちせいぞうマシンの「ひみつ道具ならでは」といえる特別な有用性は、現代では失われてしまいました。
もちせいぞうマシンが機械的な仕組みで脱穀をしているとしたら、材料の投入口に手などが巻き込まれるとかなり危険です。大型のシュレッダーと同様に、小さなお子さんがいる家庭では十分な注意が必要でしょう。
餅を作るためだけの道具を悪用しようがありません。
高さがおよそ1メートルはあるもちせいぞうマシンは、大きくて人目につきます。
しかしその機能は現在の技術でも実現可能でオーバーテクノロジーとはいえません。もちせいぞうマシンを人に見られてしまっても、それが未来の道具だとは思いも寄らないことでしょう。
脱穀機も精米機も自動餅つき機も現実に存在しています。それらがオールインワンになったに過ぎないもちせいぞうマシンには、革命性なぞありません。
「ドラえもんのひみつ道具を一つだけもらえるとしたら」という夢物語で、これほど現実的なものを選ぶ理由があるでしょうか。というわけで、もちせいぞうマシンの優先度は星
つです。