料理の研究にハマったジャイアンが、みんなに手料理を食べさせる研究発表会を開くと言い出しました。
ジャイアンの料理のセンスは最低最悪だけど、「まずい」だなんて言ったらなにをされるかわかったもんじゃありません。我慢して食べるしかないとのび太は覚悟を決めました。
その話を聞いたドラえもんが解決策として取り出したひみつ道具が“味のもとのもと”です。
「味の素」が登録商標であることを考慮してか、アニメ版では「スーパーグルメスパイス」や「なんでも食べる子元気な粉」などに改名されています。
ドラえもんの味のもとのもとは、どんなにまずい料理でもおいしくする調味料です。味だけではなく匂いまでもが抜群においしそうになって、食欲をそそります。
作中における描写から、1品につき2ふりが使用量の目安で、かければかけるほど効力が高まると推定されます。
冷蔵庫の残り物を鍋にぶち込んで煮て、仕上げに味のもとのもとをパッパと2ふり。それだけでミシュランガイド掲載店の料理に(見た目以外は)匹敵する逸品が出来上がります。
なにせ、うまい飯の価値は問答無用です。
匂いで高まった気持ちが食べた瞬間に一気に解放されて幸福感に包まれる。そんな最高の食事を望めばいつでも味わえるようになる味のもとのもとがあれば、人生が豊かになるといっても大げさではないでしょう。
ひねくれたものや、おかしなものも少なくないひみつ道具にしては、珍しくまっとうで的を射た効力です。
難点は消耗品であること。「ひみつ道具を一つだけもらえる」という条件なので、補充は当然できません。
本家「味の素 アジパンダ瓶」は1瓶70gで、公式Q&Aによると1ふりが約0.1gです。味のもとのもともこれと同様だとすると、2ふりずつ使った場合、350食分となります。
それだけあれば十分? それとも足りない? 一つ確かなのは、現実的であまり夢のない量だということです。
一口に「まずい」と言っても、その味はさまざまです。傷んだ食べ物の嫌な味もまずさの一つです。まずさは、体に毒となる食べ物を知らせる危険信号の役割も果たしています。
味のもとのもとをふりかける前に、念のため味見したほうが賢明です。
もっと恐ろしいのは、正気なら食べない物を食べてしまうことです。
味のもとのもとが登場する原作エピソード「ジャイアンシチュー」では、味のもとのもとの蓋が外れてドバっとジャイアンにかかってしまいました。
するとどうでしょう。うまそうな匂いにつられて、その場にいたのび太にスネ夫、しずかちゃんまでもがジャイアンを食べようとしたのです。
けっして食べてはいけない物に味のもとのもとをふりかけてはなりません。
普通なら絶対に食べないようなあからさまに傷んだ料理でも、味のもとのもとを多めにふりかければ、誰にでも簡単に食べさせられます。
食中毒は下痢や嘔吐を伴うつらい病気です。イタズラでは済みません。
そして味のもとのもとの悪用でもっとも人の道を外れた鬼畜の所業が食人を誘発することです。食べられた人は当然死亡。食べてしまった人は正気に戻ってからが地獄です。
突発的な集団ヒステリーによる食人として、歴史に残る事件となるでしょう。
ただし味のもとのもとをほぼ1瓶まとめてかける必要があるため、実行できるのは1回限りです。もちろんその1回すら絶対に許されない凶行なので、存回恐ろしい一面を秘めたひみつ道具であることに変わりありません。
料理に味のもとのもとをかけた途端にとんでもなくおいしそうな匂いが漂い始めるため、人前で使えば必ずや関心を集めてしまうでしょう。
一人きりのときに使う分には人に知られようがありません。マイ調味料を飲食店で使うのはマナー違反とされていることだし、味のもとのもとは自宅用だという割り切りが肝心です。
もしも味のもとのもとが普及したら、もう料理は見た目と栄養価だけを考えればよくなります。誰がどう作ってもおいしくなるので、外食産業は根本から覆されるでしょう。
とはいえ1瓶350食分だけでは、ドラえもんから味のもとのもとをもらった人が個人的に利用しておしまです。
味のもとのもとの「ごはんがおいしくなる」という効力は簡潔にして最高です。
ただし食事に関するひみつ道具には、定番の“グルメテーブルかけ”があります。
それぞれの料理を食べたのび太リアクションからして、グルメテーブルかけの料理より、味のもとのもとをかけた料理のほうが断然おいしいようです。
その代わりグルメテーブルかけは無尽蔵に料理を出せます。
どちらがより魅力的かといえば、いつでもどこでも出来立ての好きな料理が食べられるグルメテーブルかけのほうに分があるでしょう。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、味のもとのもとの優先度は星
つです。