ジャイアンの口車に乗せられて、のび太は100円のアイスを50円でジャイアンに譲ってしまいました。そのことをドラえもんにとがめられても、のび太は自分が騙されたことに気づきもしません。
さすがにお人よしが過ぎるのび太の将来を心配して、ドラえもんは荒療治すべく“ギシンアンキ”を取り出しました。
ドラえもんのギシンアンキは、人に疑心暗鬼を生じさせる錠剤です。これを服用すると、人を信じられなくなって、徹底的に疑って真相を突き止めようとします。
副作用として、短気で強情でつねにイライラしている攻撃的な性格への変化と、モラルの低下が見受けられます。
用量は1回1錠。効果の持続時間と内容量は不明です。当サイトでは、持続時間は8時間、内容量は90錠と仮定します。
正直者が馬鹿を見ることも多いこの世の中で、無条件に物事を信じるのは危険です。だからといって「ギシンアンキを飲めばもう大丈夫!」とはいきません。
のび太だって初めはジャイアンを疑っていました。のび太に欠けていたのは猜疑心(さいぎしん)ではなかったのです。この件についていえば足りなかったのは論理的思考力です。
結局のところ人は自分が信じたいものを信じます。猜疑心が強くても、論理的思考力が高くても、騙されるときはコロッと騙されます。
「ダマサレン」だったならともかく、ギシンアンキでは本気の悪意から身を守るすべにはなりません。
「疑心暗鬼」とは疑いの心に自分自身が惑わされた心境のこと。そんな状態では正常な判断ができません。
ギシンアンキが効いているあいだは、普段とは違う誤った選択をする可能性が高いでしょう。それが人生にとって重大な選択だったら手遅れです。
ギシンアンキが効いている人は、信頼関係を築き上げた恋人や友人などにもお構いなしに疑いをかけて、しかも露骨に相手を追及します。相手にしてみれば信頼を裏切られたように見えるでしょう。
かように人間関係に悪影響をもたらすギシンアンキを人に盛るのは、かなりな悪行といえます。
ギシンアンキの症状は劇的で、いつもと様子が違うのは明らかです。
けれど「なにか嫌なことがあったのかな」とか「ドラッグやってる?」とか思われることはあっても、「もしかしてドラえもんのひみつ道具のせい?」だなんて誰一人考えもしないでしょう。
たかが疑心暗鬼で革命が起こせるほど社会が脆弱だったなら、とうの昔に崩壊しています。
確かにのび太は騙されやすくて、ドラえもんが心配する気持ちもわかります。もしものび太がスマホを持っていたら、ネットに蔓延(まんえん)するデマに踊らされて毎日のように痛い目に遭っていたでしょう。
そんな問題を解決する力がギシンアンキにあるかというと、まるで力不足です。むしろギシンアンキはいたずらに問題を大きくします。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ギシンアンキの優先度は星
つです。