帰宅したのび太がにらめっこの決勝戦がやりたくてドラえもんを探したけれど、姿が見えません。どこかへ出かけたようです。しかたなく昼寝をしようとすると、どこからかドラえもんの声が聞こえてきました。
その声によると、ドラえもんは空き地に行っているとのこと。部屋にいないドラえもんの声がしたのは、ひみつ道具の“おそだアメ”によるものでした。
ドラえもんのおそだアメは、声が伝わるタイミングを遅らせるアメです。
このアメをなめた人が発した声はそのときは聞こえずに、10分後に音になります。遅延時間は1粒ごとに追加されます。たとえば6粒なめると、声が音になるのは1時間後です。
遅延時間を過ぎると体側の効果が切れて、通常の発声タイミングに戻ります。
リサイタルの前におそだアメをなめたジャイアンは、自分の声が出ていないことに最後まで気づかず歌い続けました。よって使用者は効力の自覚がないと推定されます。
おそだアメは浅田飴(あさだあめ)を模していることから、1缶の容量は代表的な浅田飴の「固形浅田飴 クールS」と同じ50粒とします。
「浅田飴子供せきどめドロップ」TVCM わぁー篇
ドラえもんはのび太に伝言を残すためにおそだアメを使いました。原作が描かれた当時は携帯電話がまだ普及していなかったのです。みんなが当然のようにスマホを持っている今では考えられない伝言の仕方です。
スマホと比べたおそだアメによる伝言の不便さは遊び心ともとれます。重要な要件でないなら、おそだアメを使うのもありでしょう。でも実際問題使うかというと……。
もちろんおそだアメの用途は伝言に限られません。遊び心を活かしたなにか面白い使い方がほかにもあるはず。おそだアメは使う人の発想力が問われるひみつ道具です。
おそだアメをなめたら効果が切れるまでは普通の発声ができません。10分間ならともかく、何粒もなめて効果時間を延ばし過ぎると、不便な思いをするでしょう。
大事な面接やプレゼンを直前に控えている人におそだアメをなめさせれば、なにもしゃべれないという失態を招けます。見ている人たちは「緊張で声も出ないのか」と評価を下げることでしょう。
当の本人は声が出ていない自覚がないので、そのことを指摘されてもなにがなんだか訳もわからず、対応しようがありません。
ただしアメと声は関連性が深いので、なめさせられた人があとから状況を理解して思い返したなら、発声がおかしくなった原因としてまっさきにアメを疑うはず。そういった点で悪用向きとはいえません。
そこにいない人の声がしたとき、「ドラえもんのひみつ道具の仕業だな!」と端(はな)から確信する人はまずいません。せいぜい「どこかにスピーカーが仕込んであるのだろう」と思われて仕舞いです。
おそだアメを自分で使う分にはさほど神経質にならなくても秘匿性を守れるでしょう。もちろん人になめさせた場合の秘匿性は保障されません。
とても不可思議な科学技術ではあるけれど、人の肉声にレイテンシーを生じさせたところで社会に変革は起こらないでしょう。
役に立つんだか立たないんだか、おそだアメはなんともいえないひみつ道具です。その微妙な感じが「ひみつ道具らしさ」とはいえ、ひみつ道具を一つしかもらえない条件下ではいただけません。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、おそだアメの優先度は星
つです。