夜も更けた大みそかの寒空の下、一人でマッチを売らされている少女がすこしでも暖をとろうとマッチをともすと、光の中に今は亡きおばあちゃんが現れて……。
この物悲しいアンデルセン童話『マッチ売りの少女』は本当にあった話なのだとドラえもんが言い出しました。なんでも“タイムマシン”で過去を訪れた人が落としたひみつ道具が関与しているそうです。
それが“ドリームマッチ”です。
ドラえもんのドリームマッチは、心に思っていることを映し出す、すこしふしぎなマッチです。
このマッチに火をつけると、火の一番近くにいる人の胸の内が映像となって宙に浮かび上がります。
ドラえもんからもらえる一箱に入っている本数は、通常の並型マッチを参照して、40本と仮定します。
映像を頭で思い描くのと、目で見るのでは大違い。どんな光景でも自由に映像化して見られるドリームマッチの娯楽性はかなりのものでしょう。
けれどマッチが燃えている時間なんて高が知れているのに、たったの一箱しかもらえないのでは、あっという間に使い切ってしまいます。物足りなさを拭えません。
映像を映し出すだけのドリームマッチに直接的な危険性はないでしょう。
しいて挙げるなら、精神が不安定になっているときに使うと、自分のおぞましい内面をまのあたりに見てしまうおそれがあります。
ドリームマッチの火を誰かにかざせば、その人の胸中をのぞけます。とはいえ誰にでも見える映像が宙に浮かび上がるので、こっそり盗み見るのはほぼ不可能です。相手にバレてしまうのでは悪用向きとはいえません。
また原作エピソードで見て取れる限りでは、ドリームマッチが映し出すのは表層的な思いだけで、深層心理は探れないようです。バレるのを覚悟の上で強行しても、それに見合う収穫は得られないでしょう。
チャッカマンは常備しているけれど、マッチは置いてないという家庭が多いのでは? マッチは今となっては珍しい道具だといっても過言ではありません。目に留まったら、思わずつけてみる人も多いことでしょう。
ドリームマッチは、使うにも、保管するにも人目を避けるべきです。
たとえ表層的なものだとしても、人の思考を明確に読み取る技術は革新的です。
しかし現在いわれているとおり、思考が脳内の電気信号に過ぎないのなら、ドラえもんの生まれる2112年9月3日までに実現していても、なにも不思議でないのかもしれません。
自分で想像した光景を映し出して、自分で観る。自作自演というか自家発電というか自己完結というか、とにかく一人遊びの極みです。空想にふけるのが好きなら、延々と楽しめることでしょう。
想像を具現化するドリームマッチは創作活動の手助けにもなるはずです。
惜しむらくは消耗品なこと。どのような使い方をするにせよ、一箱で足りるとは思えません。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ドリームマッチの優先度は星
つです。"マッチ売りの少女" 水曜日のカンパネラ
『マッチ売りの少女』 - キッズボンボン アニメ世界の名作童話