ジャイアンの描いた絵をスネ夫がいつものようにお世辞で褒めちぎっています。その成り行きで、のび太はジャイアンの絵画モデルをやる羽目になりました。
怒りん坊のジャイアンは、のび太が少しでも動くと殴ります。そんな不憫なのび太のためにドラえもんが取り出したひみつ道具が“ダッピ灯”です。
ドラえもんのダッピ灯は、人間を脱皮させるライトです。
これの光を浴びると、体じゅうがムズムズしてきて、頭の先から爪の先まで一気にするりと外皮が脱げます。元ある外皮の下には新しい皮膚と毛ができているため、脱皮しても見た目はなにも変わりません。
抜け殻はきれいに一つにつながっているため、空気を入れると膨らんで、元の人そのままの姿になります。
のび太は抜け殻を身代わり人形にするためにダッピ灯を使いました。なにせ本物の皮膚だから、本人といっさい見分けがつきません。それだけに死体だと勘違いされて無用な騒ぎになる可能性も高いので、使いどころが難しくもあります。
そもそもリアルな身代わり人形が必要になる状況なんてそうそうないでしょう。
ダッピ灯を日常生活で活かすなら着目すべきは抜け殻ではなく、皮膚が生まれ変わる点です。
脱皮すれば、汚れも垢(あか)も完璧に落とせます。そして脱皮はいわば究極のピーリングです。美肌効果も見込めるのです。
帰宅したら部屋着に着替えるついでに脱皮する。そうすれば、毎日生まれたてのピカピカのツヤ肌で暮らせます。それも時間もガス代も水道代もサロン代もかからずに!
ダッピ灯を使ったのび太もスネ夫もジャイアンも脱皮直後から普通に活動していました。皮膚がしばらく過敏になる等の副作用はないようです。
しかし爆発的な新陳代謝を促すからには体に猛烈な負担が掛かっているはずです。短時間に連続して脱皮するのは勧められません。
またダッピ灯で脱皮するのは表皮だけだと推定されるので、せっかく入れたタトゥーが消えてしまう心配もないでしょう。逆にいえば、ダッピ灯を用いてもタトゥーは消せません。
悪徳プロデューサーがアイドルに脱皮を強制して、その抜け殻を裏で高値で売るとかなんとか、とにかくまあ「人間の脱皮」という非現実的な現象が絡むので悪用にも現実味がありません。
なんにせよ、もう一つの現(うつ)し身である抜け殻を本人の承諾を得ずに手に入れてはいけません。
全裸になるわ、脱皮するわ、生々しい抜け殻が出るわで、どうにもこうにもダッピ灯は人前で使いようのないひみつ道具です。
体を洗う代りに一人きりのときだけ使うなら大丈夫。それでも抜け殻のゴミ出しには注意が必要です。念のため細かく裁断してから捨てましょう。
人々がみな脱皮できるようになった世界を想像してみよう。たぶん脱皮に対する抵抗感なんてすぐになくなって、当たり前の生活習慣として定着するでしょう。社会の在り方も意外なほど変わらないように思えます。
どのみち1台のダッピ灯で賄える人数が脱皮したところで、革命的といえるほどの変革は起こりません。
全身まるっと新調できるダッピ灯の効力は、潔癖症の人にとって堪らなく魅力的だろうし、真逆のずぼらでお風呂嫌いの人にとっても手早く済ませられるからありがたいでしょう。
これはなかなかの逸品だといえます。それでも、ひみつ道具の中にあっては、やはり三番手四番手止まりです。
というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ダッピ灯の優先度は星
つです。