のび太に将来の夢を尋ねたのび助(のび太の父)は愕然とするばかり。それもそのはず、のび太は大人になったらガキ大将になりたいというのです。
子供に威張り散らす大人になったのび太を想像してげんなりしたドラえもんは、今のうちにガキ大将を経験させて、目を覚まさせることにしました。そこで取り出したひみつ道具が“ゆめふうりん”です。
ドラえもんのゆめふうりんは、寝ている人を眠らせたまま呼び集めて、言うことを聞かせられる風鈴です。
これの音を聴いた人に効果が現れます。音を聴かせる対象は、本体上部のダイヤルで年齢層を絞り込めるほか、名前を呼びながら鳴らすと特定の人物に限定できます。ただし対象者が目覚めていると、一切の効果を与えられません。
のび太の年齢を指定して、いつもの空き地で鳴らすと、クラスメイトが6人集まりました。ゆめふうりんの音が聞こえる範囲は、通常の風鈴よりも広いようです。
ゆめふうりんによって集められた人は、夢遊病(睡眠時遊行症)のような状態で、ドラえもんは「ねむったままおきてきたんだ」と詩的な表現をしました。寝ぼけているので、論理的な行動はあまり取れません。
普段よりも眠りが深くなるようですが、つねるなどの肉体的な刺激を与えると目を覚ましてしまいます。また、寝ているあいだにやらされたことは、夢として記憶に残ります。記憶のディテールや保持期間は、通常の夢と同程度だと推定されます。
論理的な作業が無理で、刺激を与えると目を覚まして効果が切れてしまうのでは、ゆめふうりんで人を呼び出しても、これといって役に立ちません。
劇中では、ジャイアンのようなガキ大将になった気分をのび太に味わわせるために使われました。こういった矮小な目的の達成しか有用な使い道はないでしょう。
そもそも、眠っている人を操ること自体がなんとも身勝手な所業であって、とてもじゃないけど有用といえるものではないのです。
夢うつつで判断力が低下したまま夜道を移動するのは危険です。ゆめふうりんで呼び出した人が、来る途中で交通事故に遭うことは十分に考えられます。夜間の交通量が多い地域で不特定多数の人を集めるのは避けた方が賢明でしょう。
ゆめふうりんの「眠っている人に思うまま言うことを聞かせられる」という効力からは、よからぬ犯罪の臭いが漂ってきます。たとえば住居への侵入もお手の物。内側からカギを開けさせられるから、セキュリティは用を成しません。
はたまた転落すれば無事では済まない高所に呼び出して……。
とにもかくにもろくでもない目的に転用できてしまいます。欲望のままに使えば、悪魔の道具と化すのです。むしろ悪事に使ってこそ、ゆめふうりんは本領を発揮するとすらいえるでしょう。
原作エピソード「ゆめふうりん」が描かれた70年代ならいざ知らず、現代は24時間営業のコンビニや、防犯カメラがそこかしこにあります。大勢の人を一斉に呼び集めることを秘密裏に進めるのは困難を極めるはず。
対象者を少人数かつ近隣の人に絞り込んで、更に呼び集める場所や時間などを綿密に計画してようやく最低限の秘匿性が得られるでしょう。
また、呼び集めた人には夢とはいえ記憶が残ることを甘く見てはいけません。顔がバレればいずれは足がつきます。動物のかぶりものなど、夢の登場人物っぽいシュールな扮装をして、顔とそれが現実であることを隠す工夫も必要です。
笛吹き男が笛の音で子供たちを操って連れ去り、消えた130人の子供たちは二度と戻らなかった……。ドイツのハーメルンに13世紀から伝わる『ハーメルンの笛吹き男』の伝承は、ここ日本でもよく知られています。
藤子・F・不二雄先生は、『ハーメルンの笛吹き男』からゆめふうりんの着想を得たのかもしれません。ゆめふうりんの使いかた次第では、笛吹き男のように『○○の風鈴男(女)』としてその悪名を歴史に残すことでしょう。
銃を持てば打ちたくなるのが人間の心理です。ゆめふうりんがモラルに反するひみつ道具だとわかっていても、誘惑に負けてしまうかもしれません。それはすなわち「道具に使われる」状態でもあります。
こういったものは、持たないに越したことはないでしょう。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、ゆめふうりんの優先度は、星
つです。