いつも「むすっ」としているムス子(本名)はのび太の同級生。感じが悪いせいで、仲間外れにされています。
彼女のことを知ったドラえもんは「仲間外れにされて、ますますむすっとする」という悪循環だろうと思いました。そこで物は試しにと取り出したひみつ道具が“表情コントローラー”です。
ドラえもんの表情コントローラーは、人の表情を操る装置です。これのアンテナを人に向けてボタンを押すと、特殊な電波が相手の表情筋を動かして、強制的に表情を変えさせます。
ボタンは6個あって、下記の表情がそれぞれに振り分けられています。
気分がのってなくても、なにはともあれ行動すれば、意外と気持ちは後からついてきます。「笑う門には福来る」とは、そういうことでしょう。
ムス子も表情コントローラーで飛び切りの笑顔になったことで、のび太たちの輪に自然と溶け込むことができました。
ただし人間性は十人十色だから、十把一絡げには考えられません。人によっては、ときによっては、表情コントローラーで気持ちを切り替えようとしても「怒りや悲しみが余計に増すばかり」ということだってあるでしょう。
負の感情の原因となっている問題をほかのひみつ道具で根本的に解決したほうがスマートです。
心と体は表裏一体です。感情の発露たる表情を機械的に操り過ぎると、心と体のバランスを崩して、メンタルヘルスに変調をきたすかもしれません。
相手が今どんな感情なのか、それを知る一番の判断材料が「表情」です。つまり「表情に出す」ことは「意思表示」でもあります。「人の意思表示を操る装置」と考えれば、表情コントローラーがどれだけ悪質かが分かります。
学校で、職場で、その場にそぐわない表情を誰かにさせ続けたら……。
クラスの人気者のしずかちゃんだって、いつも不機嫌な顔をしていたら、ムス子みたいに周囲から避けられるようになるでしょう。
平時なら大半の人は「特殊な電波で表情を操る」なんていう馬鹿げた話には鼻も引っかけないでしょう。
でも「なぜか自分の気持ちと裏腹な表情になってしまう」という状況で「表情アイコンのボタンが並んでいる装置」を見たら、「もしかして」と思うかもしれません。
表情コントローラーの有効距離は長くても数メートルだと推定されます。他人の表情を操るなら、表情コントローラーを見られないようする用心深さが求められます。
一度に一人の表情を操れるだけじゃあ、世の中に変革をもたらすにはまるで力不足です。
「毎日を笑顔で過ごしたい」とか「あの人を笑顔にしたい」といった思いをかなえるのに表情コントローラーを使うのはちょっと無理があります。
きっかけにはなるけれど、決め手にはならない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、表情コントローラーの優先度は星
つです。