賄賂(わいろ)のことを「袖の下」なんて言うと奥ゆかしく感じるけれど、とどのつまり欲にまみれた汚い金品です。
そんな大人の事情も、児童漫画だからといって子供の世界だけでは完結させない『ドラえもん』には、ちょこちょこ顔を見せます。賄賂を風刺したひみつ道具の“Yロウ”もその一つです。
ドラえもんのYロウは、Y字型のすこしふしぎなローソクです。
頼みごとをするときにこれを賄賂として贈ると、相手はとてつもなく価値のある品をもらった気分になって、頼みを必ず引き受けてくれます。そしてその約束をなにがあっても果たそうとします。
賄賂とは、受け渡しが不正ないし不法にあたる報酬のことです。それに準ずるYロウは、つまるところ悪事用です。
なにせマインドコントロールを用いて頼みを引き受けさせるのだから、たとえ報酬の受け渡しが合法のケースに使ったとしても、正当化するのは無理筋です。
Yロウを使って頼みごとをしてから「やっぱやめよう」と気が変わっても、相手はキャンセルを断固として聞き入れてくれません。その頼みごとが招く結果をよくよく検討しておかないと、あとあと面倒なことになるおそれがあります。
Yロウの効果は絶大です。役人に文字どおり賄賂として贈って、不正に便宜を図ってもらうのもたやすいことでしょう。もっとゲスに、アイドルに愛人契約を結ばせたり……。
相手の本意を無視して、なかば強制的に頼みごとを引き受けさせるYロウは非常に悪質で、まさにゲスの極み道具です。
その代わり「相手にあげる」という厳しめの発動条件が課せられています。頼みごとを聞いてもらう相手を変えるときは、Yロウを取り返さねばなりません。「返してくれ」と言っても返してはくれないので、盗むか強奪することになるでしょう。
悪用度は高いものの、泥臭い方法を強いられるのが足かせとなります。
Yロウをもらった人は、「なんだかよくわからないけど価値のある品」という漠然とした理解にとどまって、「絶対的な賄賂になるひみつ道具」という本質的な価値に気づくことはありません。
その上「賄賂をもらった」という後ろめたさも感じて、大っぴらにしません。非合法な頼みごとだった場会はなおさらです。
それでも相手に渡したままになる以上、なにかのきっかけで表沙汰になるリスクがつきまといます。口が軽かったり、順法意識が低かったりする相手に使うときは、Yロウの存在が明るみに出る覚悟が必要です。
政治家の汚職事件を挙げていくと枚挙にいとまがありません。庶民のあずかり知らなぬところで日々賄賂が行き交って世の中は動いているのでしょう。
Yロウがいくつもあれば、水面下で社会を牛耳ることすら視野に入ります。けれどたった一つのYロウでは、世の中を動かすまでには至りません。
どうせ政治家は汚職にまみれているのだから、自分もYロウで甘い汁を吸ってなにが悪い! なんて気にもなるけれど、そんなことをしたらドラえもん(ひいては藤子・F・不二雄先生)がどう思うか、と考えると我に返ります。
とにもかくにもYロウには、手を染めないに越したことはない。というわけで、もしもドラえもんのひみつ道具を一つもらえるなら、Yロウの優先度は星
つです。