オナラやウンチが多くの絵本の題材になっているのは、子供にトイレを教える意味合いだけではなく、単純にウケるという強みがあるからでしょう。
そんな題材を藤子・F・不二雄先生が見過ごすわけがなく、『ドラえもん』にもオナラにまつわるひみつ道具の“音楽イモ”が登場します。これが飛び切りくだらなくて笑えるひみつ道具なんです。
音楽イモは、歌声に聞こえる音のオナラが出るようになるひみつ道具です。
焼き芋そっくりな音楽イモを食べると、およそ10分でお腹に特殊なオナラ、通称「メロディーガス」がたまります。メロディーガスをお尻から放出する音は、まるでそよ風みたいに爽やかな歌声のように鳴り響きます。
作中で音楽イモを食べたドラえもんとのび太の二人とも、メロディーガスが奏でた歌は童謡の"鳩"でした。
童謡"鳩"
しかしのび太のときは「プップップハトブッブ♪イモガホシイカソラヤルゾ……ミンナデナカヨクカギニコイ」(1)と替え歌になりました。このことから、メロディーガスが奏でる歌には、本人の意思が反映されることがうかがい知れます。
よって本稿では、どんな曲でも自由にオナラで歌えるものとします。
音楽イモの用量はほんの一口です。一度にたくさん食べると人を吹き飛ばすほどの強力なオナラが放出されます。全部まとめて食べてしまったのび太は、オナラで空を飛んで行ってしまいました。
人体を飛ばすほど勢いのあるオナラが出たら、普通ならお尻が堪えられません。ところがのび太は身体的ダメージを一切受けていないので、メロディーガスは体への負担がとても少なく、かつ物体を浮遊させる特殊な力があるようです。
そんなメロディーガスですが、オナラはオナラ。臭います。
もらえる量は4本。音楽イモに消費期限はないものとします。
(1)『ドラえもん』第4巻「メロディーガス」より
作中で音楽イモは、忘年会の出し物として使われました。のび太は体面を気にして腹話術として発表したけれど、「歌うオナラ」のほうが何倍もウケるはず。
たかがオナラとあなどるなかれ、テレビ番組『月曜から夜ふかし』によると曲屁師の松下誠司さんは、(真偽のほどは不明ながら)ラスベガスから声が掛かってディナーショーを開催、全15回公演で4億5000万円ものギャラを受け取ったそうです。
オナラも極めれば立派なエンターテインメント。演出しだいでは、大勢の観客を笑わせられるでしょう。
ただし音楽イモは消耗品ですから、曲屁師として継続的に活躍することはかないません。空を飛ぶ機能なら“タケコプター”のほうが格段に優れています。トータルでの有用性は高いとはいえず、一発芸的なひみつ道具にとどまります。
ドラえもんによると音楽イモを大量に食べるとガス爆発の恐れがあるとのこと。火種には十分注意しなければなりません。
とはいえ、用量さえ守れば危険性は通常のオナラと同程度。確かにオナラは可燃性だけれども、爆発を気にする必要はないでしょう。火に直接噴出するなんて馬鹿なことをしなければの話ですけど。
音楽イモの見た目や味は、通常の焼き芋と同じようなので、人に食べさせるのは簡単です。常識では考えられないほど大量のオナラが出続ける上に、その音は歌声に聞こえるのだから激しく困惑するでしょう。
更に大量にメロディーガスを噴出すると空まで飛んで行ってしまう始末。最悪なことにガス爆発する危険性まであります。音楽イモを説明することなく人に食べさせるのは、いたずらの域を超えています。
ただでさえ曲屁師は存在自体が珍しいのに、「歌声に聞こえるオナラ」となると歴史上類を見ません。音楽イモは人前で使えば秘匿性のかけらもないひみつ道具です。
一人で気分転換(くだらなくて緊張がほぐれるはず)に使う分には問題ありません。
くだらないことが社会を変える契機になることだってあり得ます。だけれど、いかんせん音楽イモは消耗品です。さすがに革命的な出来事にはつながらないでしょう。
ひみつ道具の中でもトップクラスに馬鹿馬鹿しい音楽イモ。でも、そのくだらなさが魅力でもあります。もらったらもらったで、結構楽しめそうです。だからといって自分から積極的に音楽イモを選ぶかというと……。
ということで、音楽イモ優先度は星
つです。